第7話 考えてるフリをしている者も考えすぎる者も
変化は、ある朝突然やってきた。
昨日まで“通用していたこと”が、
今日になって、通用しなくなった。
「……あれ?」
意味のないクリックを繰り返していた人の回線が、不安定になる。
形式だけの申請を乱発していた企業の手続きが、妙に滞る。
とりあえず決めただけの選択が、なぜか裏目に出る。
数値は足りている。
行動もしている。
それなのに――結果がついてこない。
「条件、変わった……?」
「いや、告知は出てないぞ」
政府は即座に気づいた。
「行動量ではない」
「判断の“質”を見られている」
誰が、どれだけ“考えて”選んだか。
誰が、自分なりの理由を持って決断したか。
世界は静かに、評価基準を切り替えていた。
少女は、机に突っ伏して落書きをしながら呟く。
「だよね。
適当にやってるの、バレないわけないじゃん」
全知全能。
世界の裏側は、すべて見えている。
「別に正解を選ばなくていいんだよ」
彼女は、くるっとペンを回す。
「考えた末の失敗なら、全然アリ。
何も考えてないのが、一番つまんない」
その“価値観”が、世界に反映されていく。
慎重に悩んだ人の選択は、
たとえ失敗しても、大きな不利益にはならない。
逆に、
中身のない決断は、少しずつツケを払わされる。
社会は混乱した。
「ちゃんと考えろってこと?」
「でも、正解分からないじゃん!」
そう。
正解は提示されない。
あるのは、
**“自分で考えたかどうか”**だけ。
政府は、ようやく理解する。
「これはもう、イベントではない」
「社会構造そのものを変える“思想介入”だ」
止められない。
交渉もできない。
調整すら、彼女の気分次第。
少女はベッドに寝転がり、天井を見上げる。
「いや〜、
世界って思ったより素直だね」
面白がっているだけ。
導くつもりも、救うつもりもない。
それでも世界は、
彼女の“遊び”に合わせて変わっていく。
政府は振り回され、
人類は考えさせられ、
少女は今日も、少しだけ退屈そうだった。
「次は……
“考えすぎる人”も困らせてみようかな」
その一言で、
次の波乱が確定した。
—————
世界は、また一段階変わった。
今度は、静かに。
だが、確実に。
「……決めきれない」
慎重な人ほど、動けなくなっていた。
選択肢を並べ、リスクを洗い出し、
最善を探し続ける――
その“途中”で、時間だけが過ぎていく。
結果、遅れる。
機会を逃す。
タイミングが合わなくなる。
「ちゃんと考えてるのに……」
「間違えないようにしてるだけなのに……」
だが世界は、もう待ってくれない。
考えすぎ=何もしない
そう判定され始めていた。
政府内部でも、異変は起きていた。
「承認フローが通らない」
「慎重な部署ほど、処理が遅延している」
「逆に、即断型のチームは成果が出ている……」
皮肉だった。
これまで評価されてきた“慎重さ”が、
今は足かせになっている。
少女は、放課後の教室で一人、窓の外を眺めていた。
「うんうん、いい感じにバランス崩れてきた」
悪意はない。
ただの観察。
「行動しないのもダメ。
適当なのもダメ。
考えすぎるのもダメ」
三重苦。
完璧な理不尽。
「でもさ」
彼女は、くすっと笑う。
「全部“自分で決めてる”んだよね」
世界は、自分で選び、
自分で困っている。
政府は、ついに覚悟を決める。
「彼女に“お願い”しよう」
「制御ではない、交渉でもない」
「――理解を求める」
初めて、上から目線を捨てた提案だった。
同時に、世間では極端な反応が出始める。
即断即決主義。
とにかく動く文化。
一方で、立ち止まる人間への無言の圧力。
世界は振り子のように、反対側へ揺れていた。
少女はスマホに表示された“人類の様子”を眺め、
少しだけ眉をひそめる。
「……あー」
初めて見せた、微妙な表情。
「これ、ちょっとやりすぎたかも」
神の気まぐれ。
だが、完全な無自覚ではない。
彼女は初めて、
“面白い”の先にあるものを、少しだけ意識した。
それでも――
やめるとは言わない。
「まあ、調整すればいいか」
その軽い一言が、
世界にとっては、何より重い。
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