第5話 世界、振り回し継続中

――結論から言うと。

世界は、まだ彼女の手のひらの上だった。


前回開催された“突発・意味不明・でも世界規模”なイベント。

ルールは雑、説明は最低限、報酬は曖昧。

それなのに人類は熱狂し、各国政府は胃を押さえ、専門家たちは頭を抱えた。


「……いや、普通こうはならないでしょ」


官庁の会議室。

世界中の政府関係者がオンラインで繋がり、誰ともなく漏らした一言が、場の空気を代弁していた。


想定外。

前提崩壊。

因果関係不明。


唯一分かっていることは――

すべてが、あの女子高生の気分次第だということ。


一方その頃。


「いや〜、思ったより盛り上がったなぁ」


当の本人は、ベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた。

世界中の反応、実況、考察、陰謀論。

どれもこれも、彼女からすれば“面白いコメント欄”でしかない。


「政府の人たち、必死すぎじゃない?

 もっと肩の力抜けばいいのに」


全知全能。

時間も空間も因果も、彼女にとっては設定画面の一部。


それでも彼女は、あえて“即終わらせる”ことはしなかった。

なぜなら――


「振り回されてる顔、ちょっと楽しい」


悪意はない。

使命感もない。

ただ純粋に、面白いから。


政府は次の一手を考える。

「どうすれば、彼女に“面白い”と思ってもらえるか」


政策でも、安全でも、倫理でもない。

娯楽性が最優先という、前代未聞の方針転換。


「……次は、こちらからイベントを提案するしかないな」

「ただし、却下される前提でだ」

「ええ、どうせ一蹴されます」


誰も反論しなかった。


その頃、彼女はふと思いつく。


「次はさ……

 “参加しなくても巻き込まれるイベント”とか、どう?」


その一言が、

次の混乱の種になるとも知らずに。


世界は今日も、

“面白おかしく生きる神様”に、元気よく振り回されていた。










————



世界各国の政府は、本気だった。


「“面白い”を定義し直せ」

「娯楽班を新設しろ」

「心理学者と脚本家を呼べ」

「高校生向けトレンドも調べろ!」


もはや国家安全保障会議ではない。

巨大なエンタメ会議だった。


各国が共同で作り上げた、渾身の企画書。

ページ数三百超。

シミュレーション無数。

倫理審査?一応通した(形式上)。


そして――

それは、彼女の前に“丁寧に”差し出された。


「……ふむふむ」


女子高生は、机に頬杖をつきながらページをめくる。

世界を救うでもなく、滅ぼすでもなく。

ただの読書感覚。


「うーん……」


政府側は、息を止めて見守る。

この数秒が、世界の行方を左右する。


「真面目すぎない?」


――終了。


「え?」


誰かが素で声を漏らした。


「なんかさ、

 “失敗しないように”って感じが全面に出てて、

 逆につまんない」


全知全能の少女は、あっさり企画書を閉じた。


「人類規模のイベントでさ、

 無難って一番ダメじゃない?」


沈黙。

重力が増したかのような空気。


「でもまぁ、努力は買うよ。

 頑張ってるのは分かるし」


その一言に、政府関係者は一瞬だけ希望を見た。


「だから――」


少女は、にこっと笑う。


「これは却下。

 代わりに、私が考えたやつやるね」


全員の背筋が凍った。


「え、あ、案を……?」

「聞いていいですか……?」


「いいよ。どうせ止められないし」


彼女は楽しそうに指を鳴らす。


「次のイベントはね、

 “何もしない人ほど困る”イベント」


説明はそれだけ。


詳細不明。

条件不明。

救済不明。


分かるのは一つだけ。

また、世界が振り回されるということ。


「じゃ、準備は私がやるから。

 政府は……実況役でいいよ」


役割分担まで勝手に決められた。


会議が終わる頃、

誰かが小さく呟いた。


「……もう、逆らうフェーズは終わってますね」


その通りだった。


彼女は神。

だが、気まぐれで、暇で、

面白さを最優先する女子高生。


そして世界は今日も、

“次は何が起きるのか分からない”という

最高に厄介なエンタメの中に放り込まれていた。

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