氷雨輪廻物語~雨宿りと氷晶とたい焼きの味~【お題フェス✧お題「天気」】
夢月みつき
本文「雨宿りと氷晶とたい焼きの味」
「雨宿りと
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その日は、灰色の曇り空で冷たい雨が降りしきる午後だった。
傘を射す主婦や小学生たちが賑やかに通り過ぎる街の歩行者通路を、コツコツと静かに靴音を響かせ、傘に当たるポツポツという雨音と、周りの雑多な音や声が青年の耳に聴こえている。
見た目よりも落ち着いた大人の雰囲気、黒の傘を差し、片手に黒の
彼は、見た目は十六歳前後に見えるが、これでもれっきとした二十三歳の成人なのだ。
輪廻は、道端でふと、足を止め、手首の銀の腕時計に目をやった、時刻は十七時過ぎ。
「……そろそろ、りなが帰っている頃だな、今日は傘を持って行っただろうか?」
輪廻がひとりごちて、再び歩き出すと向かいのシャッターの降りたタバコ屋の軒下に、雨宿りをしている見慣れたブレザー姿の女子高生が見えて来た。
肩まで伸ばした黒髪のミディアムヘアー、細身で可憐な少女、彼女の名前は
輪廻の大切な彼女である。
輪廻が声を掛けようとすると、りなが輪廻に気がつき、にこにこしながら彼に手を振って来た。
「お~いっ、輪廻さ~ん! 輪廻さんも今、帰りなの?」
輪廻は、その様子を見て微笑ましく思い、ふっと微笑を浮かべると、りなの雨宿りしている軒下に傘を畳んで入って行った。
そして、落ち着いた声で静かに話しかける。
「りな、今、帰りか……? そうか傘は持っていなかったんだな、俺の傘に入っていけば良いよ」
「うん、ありがと、輪廻さん。助かるよ」
りなはふと、輪廻の下げている紙袋が気になった。
「その紙袋には、たい焼きの絵柄と
「輪廻さん、それ、たい焼き?」
りなが輪廻に聞くと輪廻は「ああ」と、うなずきながら紙袋の中を見せた。
乳白色の紙の袋が
「帰りに、たい焼き屋に寄ってな、りなにも買って来たんだ。帰ったら、温めてやるから、早く帰ろう」
すると、りなは「輪廻さんが良ければここで食べない?」と輪廻に聞いて来た。
「……うん、別に良いけど、しかし、ここは寒いだろう? 家で食べた方がこれも温められるし、良いとは思うのだが」
りなの申し出に苦笑しながら心配をする輪廻に、彼女はこう伝えて来た。
「うん、でもね、最近、なかなか輪廻さんと二人っきりになれなかったでしょ……もう少し、ここで一緒にいたいな、なんて……駄目かな?」
りなは、頬を染め輪廻を見つめて来た、その視線に輪廻もほんのり頬を染めて微笑む。
「……ふっ、良いよ、でも、たい焼きを食べたら、すぐに帰るぞ? ここは冷えるからな」
輪廻は、そういうと、りなに自分の着ていたコートを脱いでさりげなく着せた。
輪廻の温もりが背中から感じられてかすかな匂いが鼻腔をくすぐる。
「輪廻さん、ありがとう。でも、輪廻さんが寒くなっちゃうでしょ」
「俺なら、大丈夫だよ、俺にはきみが風邪を引く方が心配だ。さあ、たい焼きを早く食べようか」
輪廻とりなは、雨宿りをしながら、並んでたい焼きを食べている。
りなは、少し冷めている鯛の形をしたどこか、愛嬌のある顔の和菓子を嬉しそうに見つめ、ぱくっと口に頬張った。
柔らかい生地の食感と、あんこの程よい甘さが彼女の口の中に広がる。
「うふふ、粒あんが美味しいたい焼きだね、あっ、輪廻さんは尻尾から食べる
その時、ふいに、りなが輪廻の方から冷えびえとした冷気を感じて、輪廻を見てみると彼の周りの空気がかすかに凍り、キラキラと細かい
りなは、目の前で起きている超常現象に、一ミリも驚くことなく溜め息を吐き、輪廻の凛々しい横顔と共に
「――輪廻さん、それ綺麗……輪廻さんの
「ああ、ふとした瞬間に微量な物ではあるがな、でも、今すぐ冷気を止めるから少しだけ離れていてくれないか? きみが冷えてしまうから」
「でも、もう少しだけ見てていい? ダイヤモンドダストがとっても綺麗……私、間近で見たことないんだ」
「……ふふっ、そうか? 仕方がないな、少しだけだぞ。人が通りかかる前に止めるからな? こいつを見られたら少々厄介だ」
「うん、分かった、ありがとうっ」
輪廻は、りなに
りなは輪廻の右手に手を伸ばすと、頬をほのかに染めはにかみながらも、そっと手に触れる。
それに気づいた輪廻は、ふっと頬を緩ますと、りなの華奢で小さな手を冷たく大きな手で優しく繋ぎ、二人の手の温度が小雨に変わって来た雨の中で、じんわりと染み入るように、輪廻とりなの心に温かな余韻を響かせていた。
……りな、なにより、きみの存在が俺をここに繋ぎ止めてくれるんだ。
――この
-終わり-
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