第2話 聖女の祈り
古代の大聖堂の扉を一人の聖女が開けた――。
「大天使リノ様⋯⋯」
そう呟いた聖女の名はショコフィーナ。ショコフィーナはロザリオを手に長い廊下を歩いていく。廊下に並ぶ蝋燭からは煙がゆらゆらと立ちのぼっている。
廊下を抜けると広い空間に出た。高い天井だ。微かな光がステンドグラスから差し込んでいる。ショコフィーナの足音の響きが静寂で支配されている空間を切り裂いていく。
祭壇の前に来たショコフィーナは
「大天使リノ様⋯⋯かつて華々しく栄えた人類ですが、暴走したAIにより、またAIが作り出したAIアンドロイド兵により警察や軍隊が敗れると、人類の数はみるみる激減していき、あっという間に文明も崩壊してしまいました⋯⋯残った人類もどんどん狩られています。最近では自らを『ゼウス』と名乗る、まるでギリシャ神話の全知全能の神ゼウスの姿を模した中枢AIアンドロイドが、ギリシャ神話の神々の姿を模したAIアンドロイド達を率いて堂々と街中を
もはや我々人類の力では対抗出来ません。
更に恐ろしいのは、その『ゼウス』達が人間の死体を掘り起こしたあと、その死体にゾンビウイルスを感染させゾンビ兵を作り出し迅速に人類を滅亡させようと企てていることです。
大天使リノ様、どうか迷える人類にお力をお貸しください⋯⋯」
その時、突然強烈な光が聖女ショコフィーナを包み込み、古代の大聖堂の鐘が鳴り響いた。それと同時にショコフィーナの目の前の空気が揺らいでいる。目を凝らすと、ぼんやりと何かが見えた。その瞬間ショコフィーナの耳に女性の声が響く。
「あ、あの、リノ様⋯⋯至急この者の話を聞けと天使長ミカエル様から連絡が入っておりますが⋯⋯」
「えっ? パパから? エミリー、どういう事?」
「さぁ、分かりません⋯⋯あっ! リノ様、会話が筒抜けになっております!! お早くお出になってください!」
「わ、わかったわ⋯⋯あっ、えっと⋯⋯そ、そこの者、聞いていますか?」
その会話に唖然としていたショコフィーナは、ハッと我に返ると神妙な面持ちで口を開いた。
「は、はい⋯⋯もしや、大天使リノ様でいらっしゃいますか?」
「そうです、私がリノです」
「やはり、そうでしたか!! ついに私の祈りが通じたのですね!!」
「そのようですね⋯⋯」
◇
人間界、ニフォン国のホテルの一室で静かに魔帝王子ルキに話をしていた大天使リノは両手を広げながらルキに近寄った。
「⋯⋯という訳なのよ、ルキ」
「いや、ちょっと意味わかんねーけど⋯⋯ああ、あれか? エミリーがドジって会話が人間に筒抜けになって面白いでしょ⋯⋯っていう話か?」
「違うわよ!!」
「じゃあ何だよ!」
「人間界を救うわよ⋯⋯って話よ」
「へぇ~、いいじゃん、救えば? 最近の人間界は自業自得で滅びそうだって、魔界でも
「何言ってんのよ、ルキも一緒に世界を救うのよ」
「はぁ~? 何で悪魔である俺様⋯⋯いや、俺が人間界を救わなきゃいけないんだよ」
「ちょっと! 何よ、その言い方は! ルキには人間達の切実な願いを聞いてあげようと言う気持ちはないわけ?」
「さらさらないね⋯⋯だって、人間自身が招いた結果じゃん」
「そ、それはそうだけど⋯⋯」
「それに人間はいつもそうじゃん! 自分勝手で、すぐ戦争おっぱじめてさ、ここで助けても結局滅びるんだよ⋯⋯それに神だって結局ずーっと放置してるんだし、滅ぶんなら滅ぶべく運命だって事さ!」
「ルキっ!!」
「な、なんだよ⋯⋯」
「私、そんなルキは嫌いだわ」
「えっ、ちょ、ちょっと待てよ、絶対手伝わないとは言ってないだろ!」
「へー、まぁ、魔帝王子が人間の救世主ってのも、おかしいわね、あはは」
「あははじゃねーよリノ、そんな風に笑ってたら、またお仕置するぞ!」
「ふ~ん、やってみなさいよ! あっ、一つ言い忘れてたけど、パパがこの問題を解決したら、私とルキの結婚を後押しするって言ってたわよ」
「えっ! 天使長が?⋯⋯それは心強い! 最近じゃ、俺のおやじと天使長が昔交わした俺とリノとの許婚の約束を反故にしろって叫んでる天界の重鎮連中のせいで天界全体も俺とリノとの結婚には反対の風向きだったからな」
「それは、あんなに可愛かった幼いルキが、こんな悪魔になったからでしょ!!」
「こんなって何だよ! いい男だろ?」
「そ、そりゃあ、イケメンだけど⋯⋯って何言わせてんのよ! とにかく手伝うの? 手伝わないの?」
「もちろん手伝うさ、俺は是が非でもリノと結婚したいからな」
「じゃあ、エサに釣られず、最初からそう言いなさいよ⋯⋯」
トントントン⋯⋯。
その時、部屋をノックする音が聞こえてきた。
大天使リノは一つ大きく息を吐くと、天使の衣のシワを気にしていじっている占いの天使エミリーに言った。
「どうやら来たようね。ちょうどよかったわ⋯⋯エミリー、入ってもらって」
「えっ? あっ、は、はい、かしこまりました」
魔帝王子ルキは窓のそばへ近づいた。すれ違いざま一瞥をくれた黄金の天使イオリアを無視し窓の外を見る。
まるで中世ヨーロッパのような街並みだな⋯⋯だが壁は崩れ、石畳は割れ、柱は傾き、風化しているのが目に見えて分かる⋯⋯それに木々の葉っぱ、ツタや草や苔といった緑色に街全体が飲み込まれているようだ⋯⋯遠くにはジャングルのように鬱蒼とした森も見えるし、なんだか古代遺跡のような街だな。
その時、占いの天使エミリーが部屋のドアを開ける音がした。
「どうぞ」
魔帝王子ルキがその声に振り返ると、そこには聖女ショコフィーナと戦闘用ツナギに身を包んだ二人の女性が立っていたのであった⋯⋯。
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