800pv記念 帝国スパイ報告書:アルカディア軍、内部分裂の決定的証拠

帝国軍の腕利きスパイ、通称「影渡りのネズミ」は、冷や汗を流しながら自陣へと馬を走らせていた。 懐にある報告書の内容は、これまでの想定を根底から覆す、あまりにも生々しい「王国の内情」だった。



 我々帝国軍は、あの「軍師カズヤ」という男を過大評価しすぎていたのかもしれない。  確かに、岩塩を見つけ出し、得体の知れない油で三万の軍勢を足止めした手腕は脅威だ。だが、英雄の皮を剥いでみれば、その正体はあまりに下劣な「守銭奴」であった。


 潜入三日目。私はアルカディア砦の中庭が見渡せる物陰に潜んでいた。  そこで目撃したのは、おぞましくも滑稽な「決別」の光景だ。


「ふん! こんな貧乏くじ、引いてられるか! 俺は金で雇われただけだ、勝ち目のない戦いになんて付き合えるかよ!」


 カズヤが吐き捨てた言葉に、私は耳を疑った。  あの不敵な笑みを浮かべていた軍師が、味方の姫に向かって「金にならないから逃げる」と公言したのだ。その声には一切の迷いがなく、強欲な男の本性が丸出しであった。


 さらに驚くべきは、セシリア姫の反応である。  高潔と謳われた王女が、あろうことか敵前逃亡を企てる男の足に縋り付き、泣き叫んだのだ。


「私を捨てないでください! お金ならなんとかします! ジャガイモの皮むきだって毎日しますから! だから……お願いですから、私のそばにいてくださいぃぃッ!!」


 ……あぁ、神よ。なんという惨状か。  「ジャガイモの皮むき」などという、王族が口にするはずもない卑近な言葉まで持ち出し、なりふり構わず一人の男を繋ぎ止めようとする姿。  あれは演技ではない。  瞳に溜まった涙、指先の震え、そして砦中に響き渡るあの絶叫。ありとあらゆるプライドを捨て去った、絶望の淵に立たされた女の「本物の叫び」だった。


結論:敵軍の指揮系統は崩壊している

 この光景から導き出される結論は一つ。  アルカディア軍の結束は、すでに「金」と「共依存」という脆い鎖でしか繋がっていない。  軍師は勝機がないと見て逃亡の準備を始めており、姫はそれを必死に(肉体的、金銭的に)引き留めようとしている。軍師が去れば、残るは無力な王女と、士気の低い残存兵のみ。


 我が帝国軍は、もはや策を弄する必要はない。  一気に踏み潰せば、内部から自壊するのは明白である。  ……正直、あの姫の泣き喚く姿には同じ人間として同情を禁じ得なかったが、これこそが戦場というものだろう。


 報告を終えたスパイは、心の中で呟いた。 (あの男、カズヤ。金のためにあんな美しい姫を泣かせるとは……。同じ男として軽蔑するが、敵としてはもう怖くないな)


 スパイの確信に満ちた報告を受けた帝国司令部は、意気揚々と全軍突撃の号令を下す。  それが、カズヤとヒルデガルドが仕掛けた「史上最大の罠」への招待状であるとも知らずに。


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