第16話 死地への行軍 ~人間カイロは挟まれてこそ輝く~

スパイによる「アルカディア軍、内部崩壊」という報告を信じた帝国軍は、一気に砦へ攻め寄せてきた。  俺たちはそれを見計らって砦を放棄し、本命の罠がある渓谷『竜の顎』へと撤退を開始した。


 だが、問題は気温だ。  季節は晩秋。しかも山岳地帯の夜明け前。  寒すぎる。


「さ、寒い……。無理だ、俺は南国生まれの現代っ子なんだ……」


 馬上の俺はガタガタと震えていた。  貧弱な軍師装備(布の服)では、この寒風は防げない。  すると、左右から温かい気配が近づいてきた。


「カズヤ様、お寒いのですか? くっついていれば温かいですよ」 「あら、カズヤ。私の開発した『発熱コート(試作品)』を着る? たまに発火するけど」


 右からセシリア姫、左からヒルデガルド。  二人が俺の馬に左右からピタリと体を寄せてきた。


 右腕には姫の柔らかくしなやかな感触。  左腕にはヒルデガルドの豊満で弾力のある感触。  そして二人からは、とても良い匂いがする。


「……あったけぇ」


 俺は理性を放棄して、二人の間に埋もれた。  まさに両手に花。人間カイロ万歳。


 だが、後ろを行軍する兵士たちの目は違った。


「見ろ……軍師殿を」 「ああ。ご自身の寒さを顧みず、姫様と客人の体を自らの体温で守っていらっしゃる……!」 「なんて慈悲深いんだ。あれぞ騎士の鑑だ!」


 違う。俺が守られている側だ。  だが、この勘違いのおかげで、撤退戦特有の悲壮感はなくなり、軍の士気はなぜか高まっていた。


「カズヤ、顔が赤いわよ? 熱があるんじゃない?」 「カズヤ様、私のマントを半分かけますね」


 二人が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。  俺は思った。  このままどこかの温泉地にでも逃避行したい、と。


 だが、現実は非情だ。  前方に、切り立った崖と、細く暗い道が見えてきた。


「……到着しました」


 ガルド将軍が緊張した面持ちで告げる。  決戦の地、『竜の顎』だ。


 俺は二人のぬくもりから名残惜しく離れ、表情を引き締めた(寒さで強張っただけだが)。


「よし。ピクニックは終わりだ」


 ここから先は、甘いラブコメはない。  あるのは、大量の廃油と、燃え盛る炎だけだ。


「総員、配置につけ! 帝国軍を『歓迎』する準備だ!」


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