第15話 偽りの降伏、本気の演技 ~愛ゆえの別れ(大嘘)~
決戦当日の早朝。 俺たちは、捕らえた帝国のスパイをわざと泳がせ、ある「茶番劇」を見せることにした。 敵に「アルカディア軍は仲間割れを起こして崩壊寸前だ」と信じ込ませ、警戒を解かせるためだ。
「いいですか、姫様。あそこの物陰にスパイが潜んでいます。聞こえるように、俺を罵倒してください」
中庭のバルコニーで、俺はセシリア姫に耳打ちした。
「『もうあなたなんて信じられない!』とか『この守銭奴!』とか、昨日の鬱憤を晴らすつもりでどうぞ」
「ええっ!? そ、そんなこと言えません! カズヤ様は私の英雄なのに……」
「演技ですってば。これを成功させないと、敵が罠にかかってくれません」
姫はオロオロとしている。 不安だ。この姫様、嘘がつけない性格すぎて、学芸会の木の役ですら噛みそうなタイプだ。 だが、やるしかない。
「――さあ、本番スタート!」
俺は大袈裟な身振りで叫んだ。
「ふん! こんな貧乏くじ、引いてられるか! 俺は金で雇われただけだ、勝ち目のない戦いになんて付き合えるかよ!」
俺の迫真の「クズ男」演技。 さあ来い、姫様。俺をビンタして「出て行って!」と叫ぶんだ!
「……う、ううっ……!」
姫が震えている。 そして、真っ赤な顔で、蚊の鳴くような声を出した。
「……カズヤ様の……バカ……」
かわいい。じゃなくて、弱い! スパイに聞こえないだろ!
俺は焦ってアドリブを入れた。 「なんだその態度は! 俺がいなくなれば、この国など終わりだぞ! それとも何か、俺に捨てられるのが怖いのか?」
その瞬間。 姫の脳内で何かがスパークした。 昨夜の膝枕の記憶と、これからの決死の作戦、そしてカズヤがいなくなるかもしれないという本当の恐怖が混ざり合い――感情が暴走した。
「……嫌です!!」
姫が絶叫した。 砦中に響き渡る声量だった。
「私を捨てないでください! お金ならなんとかします! ジャガイモの皮むきだって毎日しますから! だから……お願いですから、私のそばにいてくださいぃぃッ!!」
姫はその場に泣き崩れ、俺の足にすがりついた。 演技じゃない。ガチの慟哭(どうこく)だ。 (ちょ、話が違う! これじゃ俺が「純情な姫を捨てる極悪非道の男」に見えるだろ!)
物陰で見ていたスパイが、ドン引きしている気配がした。 しかし、スパイはこう解釈したようだ。 『アルカディアの姫は、軍師に依存しきっている。そして軍師は金で動く冷酷な男だ。この亀裂……使える!』
スパイが音もなく去っていく。 俺は足元で泣きじゃくる姫(演技終了後も泣き止まない)の頭を撫でながら、深い溜息をついた。
「……ま、結果オーライか」
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