​10フォロワー記念 エセ軍師の休息:平和な午後に七草粥を添えて ~なお、数日後に地獄が始まる模様~

「平和だ……。平和すぎて、逆に胃が痛い」

​王都、カズヤの自邸の庭。

俺は、目の前の「地面」を真剣な眼差しで睨みつけていた。

​数日前、俺は前世でやり残した大きな宿題を思い出していた。

そう、「一月七日の七草粥」だ。

あの日、俺は仕事に追われ、コンビニのパスタで済ませてしまった。その翌日、気づけばこの異世界に飛ばされていたのだ。

​「カズヤ様? さっきから何をそんなに、土をじっと見ていらっしゃるのですか?」

​背後から、不思議そうにセシリア姫が声をかけてくる。

​「ああ、セシリア。実は……『春の七草』を探しているんだ」

「ナナクサ……? 春の七つの草、ですか?」

「ああ。これを粥に入れて食べると、万病を払い、一年の無病息災を願うことができる。俺の故郷の神聖な儀式なんだ」

​嘘ではない。ただ、俺の真の目的は「暴飲暴食で荒れた胃を休めたい」という切実な欲望なのだが。

​異世界の野原は、食材の宝庫

​俺は地面に膝をつき、姫を巻き込んで「七草探し」を開始した。

​「いいか、まずはこれだ。『セリ』。水辺に近い場所に生えている、香りの強い草だ」

次は、ハート型の葉っぱが特徴の「ナズナ」(ペンペン草)。そして、小さな白い花が可愛い「ハコベラ」。

この世界ではただの雑草として踏まれている草たちが、俺の解説によって「聖なる食材」へと昇華されていく。

​「カズヤ様、見てください! この仏様の台座のような葉っぱ……『ホトケノザ』ですね?」

「お、冴えてるなセシリア。……あ、待て、それは紫の花が咲く方のホトケノザだ。食べられないことはないが、俺が探してるのは黄色い花の方……コオニタビラコだ」

​「難しいですわね……」

​姫は戸惑いながらも、楽しそうにカゴを緑で満たしていく。

この時の俺は、まだ知らなかった。

この平和な「雑草摘み」で培った知識が、数日後、帝国軍に包囲された絶望の砦で、兵士たちの命を繋ぐ「最強の兵糧」に変わるなどとは。

​至高の(?)、七草粥完成

​台所を借り、俺は腕を振るった。

米をじっくりと炊き上げ、細かく刻んだ七草をサッと投入する。

仕上げに、貴重な岩塩をパラリ。

​「できた。これが……カズヤ流・七草粥だ」

​土鍋の蓋を開けると、真っ白なお粥の中に、鮮やかな緑が美しく映えていた。

湯気と共に立ち上る、青く、どこか懐かしい香り。

​「いただきます……」

​一口運ぶ。

……ああ、これだ。

派手な味じゃない。肉のような力強さもない。

だが、喉を通り、胃に落ちた瞬間に、体が「ありがとう」と言っているのがわかる。

七草のほろ苦さが、異世界の濃い味付けに慣れきった舌を、優しくリセットしていく。

​「……美味しい。なんだか、心が洗われるような味ですわ」

​セシリアも、碗を抱えてうっとりと目を細めている。

​「……よし、これで今年も健康に過ごせるはずだ。帝国が攻めてこようが、魔王が復活しようが、この胃袋なら戦える」

​俺は、鍋に残った最後の一杯を、勝利を確信した軍師のような顔ですすり上げた。

この平和が、あと数日しか持たないことも知らずに――。

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