400pv記念 天才と手配書と人間大砲

視点:???


​「違う! そうじゃないわよ! なんでこの国の将軍どもは、脳みその代わりに筋肉が詰まっているのかしら!」

​帝都の片隅にある、異臭と煙が立ち込める王立兵器開発局。

私は書き殴った設計図を空中に放り投げ、ヒールの踵で床を蹴りつけた。

​私の名前は???。帝国が誇る天才技師だ。

だが、私の天才的な発明を理解できる人間が、この国には一人もいない。

私が提案した『自走式連射バリスタ』も『高圧縮蒸気戦車』も、上層部は「魔導師がいれば十分」と鼻で笑って却下した。

​バカね。魔法なんて不確定要素に頼るから、いつまで経っても戦争が終わらないのよ。

​「……はぁ。退屈。このままじゃ私の脳細胞が腐っちゃうわ」

​白衣のポケットからキャンディを取り出し、噛み砕く。

その時だった。慌てふためいた助手が、一枚の紙をヒラヒラさせながら部屋に飛び込んできたのは。

​「し、室長! 大変です! 北の砦攻略に向かった第五師団が、苦戦しているとの情報が!」

「ふーん。五千の兵で、たかが数百の砦を落とせないの? 無能ね」

「そ、それが……敵の軍師が異常なんです! なんでも、雑草を煮込んだスープで兵の士気を回復させたり、森の地形を利用して雪崩を起こしたり……常識外れの戦術で、こちらの攻撃を全ていなしているとか!」

​私の手が止まった。

雑草? 地形? 魔法による力押しではなく、論理と知識で戦況を覆しているというの?

​「その軍師の名前は?」

「ええと……たしか、カズヤとかいう……あ、これが現地から届いた手配書です!」

​助手がおずおずと差し出した羊皮紙を、私はひったくった。

そこには『最重要危険人物』という物々しい文字と共に、一人の男の似顔絵が描かれていた。

​「ほう……?」

​私は思わずゴーグルの位置を直し、その絵に見入った。

黒髪に黒目。

だが、私が注目したのはそこじゃない。

絵からでも伝わってくる、理知的な瞳。そして何より――。

​「……いい頭蓋骨の形をしているわ」

「は、はい?」

「見てみなさい、この前頭葉あたりのライン! 間違いなく、この中には高密度のニューロンが詰まっているはずよ! 帝国のゴリラ将軍たちとは大違いだわ!」

​ドクン、と胸が高鳴る。

会いたい。今すぐ。一秒でも早く。

この肖像画の男なら、私の計算(ロジック)を理解できるかもしれない。

いや、彼こそが私の求めていた『対等の知性』なんじゃないの?

​私は手配書に熱っぽい視線を落とし、指先でその顔をなぞった。

​「カズヤ……。うん、いい響きね。私の次の研究テーマは『あなた』に決定よ」

「あ、あの室長? 顔が怖いです……」

​私は助手の言葉を無視し、手配書を白衣の胸元にねじ込むと、部屋の奥に鎮座していた『あれ』のカバーをバッと剥ぎ取った。

そこにあるのは、巨大な酒樽。

ただし、周囲には無数の鉄板が打ち付けられ、底には大量の火薬筒が束ねられている。

​「ちょ、室長!? それは失敗作の『大陸間弾道輸送樽(プロトタイプ)』ですよね!? まさか!?」

「失敗作じゃないわ、未完成なだけ! ちょうど今、計算式が整ったのよ!」

​私はゴーグルを装着し、豊満な胸がつっかえるのも構わず、樽の中へと強引に体をねじ込んだ。

目的地は北の砦。

馬車なら三日かかる距離だけど、この『人間大砲』なら放物線を描いて数分で到着する。

​「座標入力よし。風向きよし。着陸時の衝撃緩和魔法陣……ええい、面倒ね、なんとかなるでしょ! 待っていなさいカズヤ、実物がこの絵の通りか、私が直接検品してあげる!」

「室長! 死にますよ!?」

「凡人は黙ってて! 天才には『計算』と『度胸』、そして『愛』があれば十分なのよ!」

​私は震える助手を無視して、導火線に火をつけた。

チリチリと火花が散る。

ああ、カズヤ。あなたの頭脳ごと、私がいただいてあげるから!

​「発射ァァァァァッ!!」

​ドォォォォォォォン!!

​爆音と共に、私は夜空へと打ち上げられた。

凄まじいGが全身にかかる。眼下で帝都が豆粒のように小さくなっていく。

風切り音が耳をつんざく中、私は胸元の手配書をギュッと抱きしめ、恍惚とした笑みを浮かべていた。

​「アハハハハ! 最高! 待っててね、私のパートナー(研究対象)!」

​星空を切り裂き、私は彼がいる戦場へと一直線に落下を開始した。

着陸地点は、砦の中庭ど真ん中。

さあ、運命の出会いまで、あと数十秒――!


ここまで読んでいただきありがとうございます! 「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、 ページ下部の【★★★】をタップして応援していただけると、執筆の励みになります! ブックマークもぜひお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る