第13話 天才技師とポンコツ姫 ~私の居場所はどこですか~

翌日。砦の雰囲気は最悪だった。  兵士たちは元気を取り戻したが、指揮官である俺と姫の間に、冷たい壁ができていたからだ。


 俺は作戦室で、ヒルデガルドが持ち込んだ設計図を広げていた。


「いい? この『増幅回路』に魔石を直列で繋げば、熱量は三倍になるわ」 「なるほど。でもそれだと、砲身が耐えられないんじゃないか?」 「そこは冷却用のポテト廃油を循環させるのよ! 揚げ物の原理ね!」 「天才かお前は。採用だ」


 俺とヒルデガルドは、技術的な会話で盛り上がっていた。  現代知識を持つ俺と、それを実現できる天才。波長が合うのは事実だ。


 だが、その様子を少し離れた場所から見ている人物がいた。  セシリア姫だ。  彼女は何度か口を開こうとして、言葉を飲み込み、寂しげに俯いていた。


 (……何を話しているのか、全然分かりません)


 姫は自分の無力さを噛み締めていた。  剣も振れない。魔法も使えない。そして、カズヤの語る「科学」の話にもついていけない。  あの赤髪の女性は、カズヤの隣で楽しそうに笑っている。対等なパートナーとして。


「……私なんて、ただのお飾りですもの」


 姫はポツリと呟き、部屋を出て行こうとした。  その背中に、カズヤの声がかかった。


「姫様、どこへ行くんですか?」


「……邪魔をしてはいけませんから。部屋に戻ります」


 振り返らずに答えようとしたが、声が震えてしまった。  カズヤがため息をつく気配がした。  足音が近づいてくる。


「邪魔なわけないでしょう。……ちょっと手伝ってください」 「え?」 「ヒルデガルドの字が汚すぎて読めないんです。姫様の綺麗な字で、清書をお願いできませんか?」


 カズヤは困ったように笑い、書き殴られたメモを差し出した。  それは、ただの口実だと分かった。  でも、カズヤは姫の手をそっと取り、ペンを握らせた。


「俺には技術があっても、それを『伝える』力が足りない。姫様が書いてくれれば、兵士たちも安心して作戦に従えます。……頼りにしてますよ、セシリアさん」


 名前で呼ばれた。  それだけで、姫の胸の奥にあった黒いモヤが、すっと晴れていく。   「……はい! 任せてください、カズヤ様!」


 姫は花が咲いたような笑顔を見せた。  その様子を横目で見ていたヒルデガルドは、「ふん、甘ったるい」と唇を尖らせつつも、どこか満足げにニヤリと笑った。


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