第8話 【錬金術】ゴミ山だと思っていた廃鉱山が、実は純度100%の『岩塩』の宝庫だった件

​ 王都から馬車に揺られること一時間。

 俺たちが到着したのは、草木も生えない荒涼とした岩山だった。

 かつては石切り場だったが、「石が脆くて建材に向かない」という理由で見捨てられた廃鉱山だ。

​「軍師殿、本当にこんなところに『塩』があるのか? あるのは石ころだけだぞ」

​ ガルド将軍が疑わしげに周囲を見回す。

 セシリア姫も、作業着(に似た動きやすい服)に着替え、小さなスコップを手に不安げな表情だ。

​「カズヤ様、もし塩が見つからなかったら……私たちはゴルドンの要求を飲むしかないのでしょうか」

「心配無用です。……俺の知識が正しければ、ここは『宝の山』ですから」

​ 俺は松明を掲げ、洞窟の入り口へと足を踏み入れた。

 ひんやりとした湿った空気。

 数十メートルほど進み、開けた空間に出た瞬間。

​ 松明の光が、壁一面を照らし出した。

​「――っ!?」

​ キラキラと、白く濁った結晶が洞窟全体を埋め尽くし、星空のように輝いていた。

​「き、綺麗……。まるで宝石のようです」

「ああ、ある意味では宝石以上の価値がある」

​ 俺はツルハシを構え、手近な壁を軽く叩いた。

 

 ガキンッ!

​ 鈍い音と共に、白い塊がボロボロと崩れ落ちた。

 俺はその欠片を拾い上げ、ふぅと息を吹きかけて埃を払う。そして、それをセシリア姫に差し出した。

​「姫様。騙されたと思って、これを少し舐めてみてください」

「えっ? 石をですか? ……カズヤ様がそう仰るなら」

​ 姫は恐る恐る、小さな舌先で白い塊に触れた。

 その瞬間。

 姫の華奢な肩がビクリと震え、青い瞳が大きく見開かれた。

​「――んっ!? しょ、しょっぱいです! これ、お塩ですか!?」

​「正解。『岩塩(ロックソルト)』です」

​「岩塩……? 山の中に、お塩があるなんて……」

​ ガルド将軍も慌てて欠片を口にし、

「おおっ、美味い! 海から取る塩より雑味がなくて、まろやかだ!」

 と叫んで感動している。

​「太古の昔、この土地は海の底でした。地殻変動で海水が閉じ込められ、数億年かけて結晶化したもの。それがこの『白い石』の正体です」

​ 俺は壁を見上げた。

 ここにある埋蔵量は、この国の人口なら数百年は賄えるレベルだ。

 現地の人々は「脆い石」として捨てていたが、現代知識を持つ俺にとっては、ダイヤの原石そのものだ。

​「さらに、ここに来る途中の森で、これを見つけました」

​ 俺はポケットから、黄色い豆を取り出した。

 自生していた野生の大豆だ。

​「この豆を絞れば、良質な『植物油』が取れます。動物の脂(ラード)よりもさっぱりしていて、ポテチとの相性も抜群だ。……それに、こいつを発酵させれば『醤油』という最強の調味料にもなる」

​ 塩と油。そして未来の醤油。

 ギルドが独占していた武器が、ここではタダ同然で手に入る。

 俺はニヤリと笑った。

​「さあ、採掘開始だ。これを持ち帰って精製し、あの強欲なタヌキおやじに見せつけてやりましょう。本当の『適正価格』というやつをね」


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