第2章:内政という名のパクリ

第6話 【悪徳商法?】「悪魔のチップス(実質麻薬)」と名付けたらバカ売れしました

​ 王城の地下から発見された大量のジャガイモ。

 あとはこれを国民に広めて胃袋を満たし、ついでに国庫も潤すだけだ。

​ だが、ここで誤算が生じた。

​「……売れないな」

「はい、売れませんね」

​ 俺とセシリア姫は、城下町の広場で頭を抱えていた。

 屋台には山盛りのフライドポテト。

 だが、客はゼロ。

​「おい見ろよ、あれ……例の『呪いの芋』だろ?」

「城の連中、俺たちに毒を食わせる気か?」

「触ったら死ぬぞ、逃げろ!」

​ 数十年かけて染み付いた「ジャガイモ=毒」という偏見は、そう簡単に払拭できない。

 「安全です」「美味しいです」と連呼すればするほど、怪しまれる始末だ。

​「やはり、無理なのでしょうか……」

「(……普通の売り方じゃダメってことか)」

​ 俺は思考を切り替えた。

 人は「安全」と言われると疑うが、「禁止」されるとしたくなる。「危険」と言われると覗きたくなる生き物だ。

​ 俺は屋台の看板を裏返し、真っ赤なペンキで書き殴った。

 『安心安全! 美味しいポテト』という文字を消して、こう書き換える。

​ 『勇気ある者のみ食せ。悪魔の欠片(デビルズ・チップス)』

​「カ、カズヤ様!? 余計に怖がらせてどうするのですか!」

「いいえ、これでいいんです。商売の基本は『恐怖』と『好奇心』ですから」

​ 俺はガルド将軍を呼び寄せ、こっそり耳打ちをした。

 サクラの準備だ。

​       ◇

​ 作戦開始。

 今回はフライドポテトではなく、よりスナック感覚の薄切り「チップス」にする。

 高温のラードに、スライスした芋を投入。

​ ジュワワワワッ!!

​ 賑やかな音と共に、焦げた塩と脂の香りが広場を制圧する。

 匂いの暴力だ。

​「な、なんだこの匂いは……」

「臭い……けど、なんか腹が減る匂いだぞ?」

​ 人々が足を止める。

 そこへ、変装(サングラスをかけただけ)したガルド将軍が現れた。

​「フン! 悪魔の食い物だと? この俺様が征服してやるわ!」

​ 将軍はチップスを一掴みすると、衆人環視の中でバリボリと豪快に噛み砕いた。

 観衆が固唾を飲んで見守る。死ぬのか? 泡を吹くのか?

​「……!!」

​ 将軍が天を仰ぎ、震え出した。

​「ぐ、ぐおおぉぉ……! なんだこの衝撃はぁぁ!」

「お、おい! やっぱり毒が!」

「口の中で……弾けるッ! パリパリの食感! 絶妙な塩気! こいつは悪魔だ……俺の理性を食い尽くす、美味すぎる悪魔だぁぁ!」

​ 将軍の迫真の食レポ(ほぼ本音)に、観衆がどよめいた。

 苦しむどころか、至福の表情で次々とチップスを口に放り込んでいる。

​「お、おい……なんか美味そうだぞ」

「俺も……一口だけなら……」

「度胸試しだ! 俺にくれ!」

​ 一度火がつけば早かった。

 娯楽の少ないこの世界で、中毒性の高いポテトチップスは最強の麻薬だ。

​「並べ並べぇ! 押すな!」

「一人一袋までだぞ!」

​ 広場は阿鼻叫喚(あびきょうかん)。

 俺とセシリア姫は、ひたすら芋をスライスし、揚げ、塩を振るマシーンと化した。

 銅貨が雨のように木箱に投げ込まれていく。

​ 夕方。

 完売の札を掲げた屋台の前で、俺はズシリと重い革袋を持ち上げた。

 この国の物価からすれば、家が一軒建つレベルの売上だ。

​「す、すごいですカズヤ様……! ただの芋が、宝石に変わりました!」

「これが『付加価値(ブランディング)』というやつですよ」

​ 俺はニヒルに笑ったが、内心ホッとしていた。これで当面の活動資金は確保できた。

​ だが、この熱狂を、路地裏から苦々しい顔で見つめる男たちがいたことを、俺はまだ知らなかった。

 商業ギルドの魔の手が、すぐそこまで迫っていたのである。


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