第36話 魔王緊急会議

世界のどこにも記されていない場所。

地図にも載らず、予言書にも書かれず、勇者の夢にも出てこない。


だが確実に存在する空間――

魔王会議場。


黒曜石の円卓。

天井は高く、星も海も火山も歯車も、全部が同時に映っている。


その円卓に、五つの玉座。



最初に着席していたのは、深海魔王ネレウス=アビスだった。


水でできたローブ。

表情は穏やか、声は低く、完全に議長向き。


「……定刻だ。始めよう」


机の中央に、一枚の紙が浮かび上がる。


そのタイトル。


――議題:もやし二号について


沈黙。


重い。

深海より重い。



「……ふざけているのか?」


最初に噴火したのは、灼界魔王イグナ=ヴァルカ。


火山国家を背負う脳筋魔王。

拳を机に叩きつけるたび、溶岩がはねる。


「魔王会議だぞ!?

 世界の均衡を語る場だぞ!?

 なぜ野菜の話をしている!!」


ネレウスは静かに返す。


「正確には“人型・測定不能・単独災害級存在”だ」


「言い換えるな!!」



そこへ、低い笑い声。


「……あは、は……」


死界魔王モル=ネクロスだった。


骨の王座。

マントは墓標で縫われている。


「……僕ね……

 死神やってるけど……」


一拍。


「……あれ、死より怖いよ……」


イグナが凍りつく。


「お前がそれ言うのか」



夢幻魔王ミルフィ=ノクスは、すでに寝転がっていた。


クッション山盛り。

葡萄酒片手。


「いいじゃなーい。

 入れちゃえば?」


「は?」


「魔王枠に。もやし二号。

 新ジャンル魔王だよ♡」


「ジャンルで決めるな!!」



最後に、機界魔王オルド=ギア。


歯車で構成された玉座。

声は完全に無機質。


「計算終了」


全員が嫌な予感を覚える。


「魔王定義五条件

 ①恐怖を生む

 ②単独で軍事バランス崩壊

 ③神殿・王国・勇者から敵認定

 ④物語的役割

 ⑤本人意思不要」


歯車が回る。


「もやし二号――

 全条件クリア」


沈黙が爆発した。



「だからって!!」


イグナが叫ぶ。


「戦争してない!

 国滅ぼしてない!

 支配もしてない!」


オルド=ギアは冷酷だった。


「していない、ではない

 できてしまう」


「ぐっ……」



その時。


円卓の端っこ。

一番小さな椅子がきしんだ。


「……あの……」


全員が視線を向ける。


そこにいたのは――

書類界新人魔王、ペイパ=ワーク。


スーツ。

分厚い書類束。

目の下の隈が深海より深い。


「……議事録係のペイパ=ワークです……」


声が弱い。


「今回の議題、

 “もやし二号を魔王枠に含めるか否か”

 で、よろしいでしょうか……」


「よろしくない!!」


イグナが即答。



ペイパは震える手で書類をめくる。


「……えっと……

 条件照合の結果……」


喉を鳴らす。


「恐怖:世界規模で確認

 軍事崩壊:単独で発生

 敵認定:全陣営一致

 物語性:異常

 意思:不要と明記……」


机に置かれる一文。


暫定結論:魔王条件を満たす


ペンが震える。


「……僕、書いちゃいました……」



ミルフィが拍手する。


「やったぁ♡

 新人、才能あるよ♡」


「やめてください……

 胃が……」



ネレウスが深く息を吸う。


「問題はここだ」


全員が静まる。


「魔王枠に入れた場合」


「世界は?」


オルド=ギア即答。


「壊れる」


「入れなかった場合は?」


一拍。


「……壊れる」


沈黙。



モル=ネクロスが呟く。


「……じゃあさ……

 魔王って何……?」


誰も答えられなかった。



ペイパが恐る恐る言う。


「……えっと……

 議事録的には……」


全員が振り向く。


「“未分類災害存在

 魔王会議管轄外

 触れないこと”

 という処理も……」


イグナが唸る。


「……逃げだな」


「はい……」



ネレウスはゆっくり立ち上がった。


「結論を出す」


全員が身構える。


「もやし二号は――」


一拍。


「魔王ではない」


「おお?」


「だが」


さらに一拍。


「魔王以上でもある」


全員が崩れ落ちた。



ペイパのペンが止まる。


「……それ、どう書くんですか……」


ネレウスは淡々と告げた。


「こうだ」


結論:

もやし二号は

魔王枠に入れない

理由:入れると魔王の定義が壊れるため


ペイパは泣きながら書いた。



会議は解散した。


誰も勝っていない。

誰も納得していない。


ただ一つ、共通認識が残った。


・無職もやし神:把握不能

・もやし二号:対策不能

・会議:意味がない



最後に、ペイパが呟く。


「……次回会議、

 欠席って……できますか……?」


誰も答えなかった。


なぜならその瞬間、

円卓の中央に一本のもやしが置かれていたからだ。


誰が置いたかは、

誰にも分からない。


会議場は、静かに閉じられた。



その頃。


当の本人・もやし二号は、畑で立っていた。


何も知らず。

何も決めず。

ただ、存在しているだけで。


世界の魔王たちを、

会議地獄に叩き落としながら。

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