第35話 もやしは戦場に立たない(立った)

戦争は、会議から始まった。


王都サンクティア中央庁舎、地下の防音会議室。

机を囲むのは、人類連合軍の代表、騎士団長、参謀、神殿関係者――そして。


「……で、なんで俺がここにいる」


俺だ。


「同盟国ですので」


騎士団長が即答する。


「だからって最前線の会議に呼ぶな!!」

「俺、武器も階級も職もねぇぞ!!」


参謀が地図を広げる。


赤い駒。

黒い駒。


「魔王軍が、正式に進軍を開始しました」


ざわめき。


「灼界魔王イグナ=ヴァルカ」

「四天王すべて出撃確認」


誰かが唾を飲む。


騎士団長が、俺を見る。


「……支援を、お願いしたい」


「え?」


「もやしの国として、ではありません」


一拍。


「無職もやし神として」


俺は立ち上がった。


「やめろォォォォ!!!」

「公式文書にその肩書き書くな!!!」



後方支援、開始


結論は、こうだった。

•前線戦闘:人類連合軍

•もやしの国:後方支援限定

•前線参加:もやし二号は禁止


俺は念を押した。


「二号は絶対出すな」

「出たら戦争終わる」


誰も否定しなかった。



戦場後方。


そこは、もはや炊き出し会場だった。


巨大な鍋。

樽。

発酵槽。


「次! 筋力回復もやし煮!」

「次! 集中力向上もやしスープ!」

「ケフィア薄めすぎ注意!!」


負傷兵が運ばれてくる。


「腕が動かん……」

「目が……」


一口。


「……あ?」

「いける」

「前より強くない?」


俺は頭を抱える。


「だから戻すなって言ってんだろ!!」

「支援は回復までだ!!」


参謀が真顔で言う。


「戻らない兵がいません」


「最悪だよこの後方支援!!」



魔王軍、接触


地鳴り。


空が、赤い。


魔王軍前衛、接敵。


炎が走る。

雷が落ちる。

瘴気が広がる。


人類連合軍、必死に耐える。


だが。


「……四天王だ」


前線が、割れた。



炎獄将バル=グリム


灼熱の巨躯。

溶岩の鎧。


剣が振り下ろされる。


《灼熱断罪インフェルノ・クレイヴ》


地面が割れ、兵が吹き飛ぶ。


「盾が!!」

「溶けてる!!」


俺は叫んだ。


「無理だって!!」

「もやし食っても限界あるだろ!!」


その時。


前線を、白い影が越えた。


「……二号ォォォ!!!」


もやし二号、静かに立つ。


「前線参加を禁ず――」


「今それ言うな」



vs 炎獄将


バル=グリムが嗤う。


「草が、立つな」


剣が振り下ろされる。


《溶界爆斬マグマ・スプリット》


もやし二号、踏み込む。


《存在硬化エグジステンス・ハードン》


拳で、受けた。


衝撃が遅れて爆発する。


ドン。


鎧が、内側から砕ける。


「……な?」


二号、連打。


《連続圧壊シリアル・プレッシャー》


拳が当たるたび、内部で圧力が炸裂。


最後。


《白茎衝ホワイト・インパクト》


一撃。


炎獄将、地面に沈む。



瘴気将ラズ=モルド


空気が、腐る。


《魂腐蝕ソウル・ロット》

《精神侵食マインド・イーター》


兵が膝をつく。


俺は叫ぶ。


「息するな!!」

「いや無理だわ!!」



vs 瘴気将


もやし二号、歩く。


瘴気の中を。


「……解析」


《生命定義再構築ライフ・リライト》


瘴気が、逆流する。


「ば、馬鹿な……!」


二号、手を伸ばす。


《存在否定・部分ローカル・イレース》


瘴気将、形を保てず崩壊。



雷断将ゼル=ヴァスト


空が裂ける。


《千雷連鎖サウザンド・ボルト》


雷が連続で落ちる。


地面が消し飛ぶ。



vs 雷断将


もやし二号、雷を蹴る。


《反発跳躍リバウンド・リープ》


空中戦。


雷と白光が交差。


《瞬芽加速スプリント・スプラウト》


消える。


次の瞬間。


《白茎断ホワイト・スラッシュ》


雷断将、分断。



影絶将シェイド=ノア


気配がない。


兵が倒れる。


「どこだ……!」



vs 影絶将


もやし二号、静止。


影が伸びる。


《影殺シャドウ・キル》


だが。


《不可視把握インビジブル・グラブ》


影を掴む。


《圧縮消去コンプレッション・デリート》


影、消滅。


四天王、全滅。



魔王、降臨


空が、燃える。


灼界魔王イグナ=ヴァルカ。


「……楽しいな」


拳を構える。



魔王 vs もやし二号


肉弾。


《灼界拳インフェルノ・フィスト》

《白茎受ホワイト・ガード》


衝突。


地形が変わる。


魔法。


《終焉炎界ラスト・ヘル》

《生命再定義ライフ・リビルド》


拮抗。


殴る。

殴り返す。


スキルが飛び交う。


《灼界終末アポカリプス》

《存在圧壊エグジステンス・クラッシュ》


互いに、決定打がない。


沈黙。


魔王が笑う。


「……いい戦いだ」


「勝敗は、ここまでだ」


撤退。



戦後


俺は地面に座り込んだ。


「……もう二度と戦争支援しねぇ」


もやし二号、札。


《戦争:非推奨》


「最初から言え!!!!」



世界は、壊れなかった。


理由は――

もやしが、強すぎたから。

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