第28話 もやし学Ⅰおよび世界標準白芽規格が同時に爆死した件(講義室は鍋)

世界は、ついに「学ぼう」としてしまった。



発端は、どこかの誰かの一言だった。


「……理解できないなら、教科にすればいいのでは?」


その瞬間、世界中の学者が同時に頷いた。


理解していないのに。



■ 世界初・もやし学部設立


王都サンクティア魔導大学。


新設学部:

白芽総合学部(通称:もやし学部)


必修科目一覧:

•もやし学Ⅰ(基礎・鍋)

•もやし学Ⅱ(応用・発酵)

•比較もやし論(白/紫/跳躍)

•無職概論(察する力)

•実技:鍋を火にかける


学生たちは、シラバスを見て固まった。


「……鍋?」


「魔法は?」


「ありません」


「神学は?」


「扱いません」


「じゃあ何を……」


教授は、真顔で答えた。


「鍋を、見ます」



■ 第1回講義「鍋Ⅰ」


大講義室。


黒板には大きく書かれている。


《鍋を火にかけるとは何か》


教授(白髪・元魔導理論家)が言う。


「火力は重要ではない」


学生、ざわつく。


「鍋は、意志を持たない」


さらにざわつく。


「だが、我々は鍋に意味を見出してしまう」


学生Aが手を挙げる。


「先生、それは哲学では?」


教授は首を振った。


「もやし学だ」


誰も反論できなかった。



■ 実技試験


試験内容:

30分、鍋を見つめよ


注意事項:

・触れるな

・祈るな

・意味を考えるな


結果。

•見つめすぎて精神崩壊

•意味を考えて失格

•祈って即退場

•何も考えなかった学生だけ合格


合格者のコメント:


「……腹が、減りませんでした」


教授陣、全員メモを取る。



■ 同時進行:世界標準白芽規格会議(ISO-MOYASHI)


一方その頃。


中立都市ルーメル。


円卓会議。


議題:

「もやしとは何か」


初手で詰んだ。


神殿代表:

「白くなければならない」


学者代表:

「白の定義が曖昧」


軍代表:

「保存できれば色は問わない」


商人代表:

「売れるなら何でもいい」


全員が沈黙した。


「……では、紫は?」


その瞬間、資料が配られる。


《紫紋跳躍もやし 実地報告書》


・食用可

・跳躍注意

・天井損傷事例あり


神殿代表:

「異端」


軍代表:

「兵器」


学者代表:

「現象」


商人代表:

「高値」


誰も譲らない。



■ もやし二号、参考資料として提出される


ここで、議長が言った。


「……では、当該存在を見れば定義できるのでは?」


扉が開く。


入ってきたのは――


もやし二号。


無表情。

白い。

立っているだけ。


会議室の空気が、重くなる。


「……彼(?)は、もやしですか?」


神殿代表が震える声で聞く。


学者が答える。


「測定不能です」


軍代表:

「存在圧が規格外」


商人代表:

「値段が付けられません」


もやし二号は、静かに札を出した。


《定義:不要》


会議、完全停止。



■ 結論(暫定)


三日三晩の協議の末。


正式文書が完成した。


《世界標準白芽規格(仮)》

•もやしとは、白い芽状のものを指す

•ただし白くなくてもよい

•芽状でなくてもよい

•食用である可能性が高い

•定義しようとすると信仰が増えるため、定義しない


署名者:全員(疲労)



■ 学部側の結論


魔導大学・白芽総合学部。


最終報告。


「もやし学とは、

 理解しない技術である」


教授会、満場一致。


学生の単位取得率:12%


理由:

「考えすぎ」



その頃、当の本人。


俺は畑で鍋を洗っていた。


「……なんで大学から問い合わせ来てんだ?」


もやし二号が、横で札を立てる。


《講義依頼:拒否済》


「誰が頼んだ」


《世界》


「主語がでかい」


俺はため息をつく。


「……俺、鍋見てただけなんだけどな」


遠くで、学問と規格が同時に崩壊する音がした。


だが世界は満腹だった。


だから今日も、誰も止めない。


鍋が火にかけられる限り。

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