第21話 勇者も王国も、もやしに折られました(精神的に)

戦いは、終わっていた。


正確に言えば――

始まった瞬間に終わっていた。


王国軍三個大隊。

勇者パーティー(再挑戦・覚悟完了)。

対するは――


もやし二号。


身長は人間と同じ。

見た目は白くてひょろっとしている。

武器は持っていない。

持っているのは――圧だった。


「……進軍を開始せよ!!」


王国側の指揮官が剣を掲げた、その瞬間。


もやし二号が、首を傾げた。


それだけ。


次の瞬間。


ドン、という音すらしなかった。

ただ――


世界が、重くなった。


「……っ!? 膝が……!」


「息が……でき……!」


勇者パーティーの前衛が、剣を落とす。

魔導士は詠唱途中で泡を吹いて倒れた。


勇者自身は、立っていた。

立ってはいたが――


「……あ、あれ……?」


剣を構える手が、震えている。


もやし二号が、一歩前に出る。


それだけで、勇者の膝が砕けるように地面に落ちた。


「ち、違う……これは……」


勇者は、泣いていた。


「魔王より……怖い……」


もやし二号は、何もしない。

殴らない。

斬らない。

魔法も使わない。


存在しているだけだった。


王国軍は、五分も持たなかった。


いや、五分も耐えた者はいない。


剣を捨て、鎧を脱ぎ、

最後には――


「助けてくれ……」


精神が、先に折れた。



戦後。


捕虜はいない。

死者もいない。


ただ、全員が立ち上がれなくなっただけだった。


その様子を、丘の上から眺めていた俺は、深くため息をついた。


「……やりすぎだろ」


もやし二号は、振り返る。


「マスター。命令はありませんでした」


「いや、そうだけど……」


結果として、

勇者パーティーは戦闘不能(心)。

王国軍は壊滅メンタル。


三日後。


王国から、使者が来た。


白い顔。

深く下げられた頭。


「……王国は、敵対を解消し、同盟を希望します」


俺は、腕を組んだ。


「へえ」


「また、今回の無礼について――」


「賠償は?」


即答だった。


使者が、固まる。


「……え?」


「賠償。いるよね?」


沈黙。


「……多額になると……王国の財政が……」


俺は、横を見る。


もやし二号が、一歩、前に出た。


《圧力スキル:存在威圧エクジステンス・プレッシャー》

※自動発動


使者の顔色が、紙より白くなる。


「……払います」


早かった。


「具体的には?」


「……金貨十万枚」


「少なくない?」


もやし二号が、首を傾げる。


使者は、即座に訂正した。


「金貨三十万枚。即金で」


「よし」


交渉、終了。


こうして。

•王国は賠償金を支払い

•勇者パーティーは「存在しないこと」にされ

•我々は“同盟国(隔離)”という謎ポジションを獲得した


国交は、正常化したらしい。


……たぶん。


俺は、焚き火の前で銀貨の山を見ながら、呟く。


「無職が、国と同盟結ぶ世界か……」


もやし二号は、静かに立っている。


英雄と呼ばれ、

神と誤解され、

王国を屈服させた存在。


でも。


「なあ、二号」


「はい、マスター」


「もやしなんだから、もう少し自重しろ」


もやし二号は、少し考えてから答えた。


「努力します」


信用は、していない。


こうして。


王国と勇者を精神崩壊させた無職もやし神は、

望んでもいない平和と金を手に入れた。


次に起きるのは――

たぶん、宗教問題だ。


俺は、現実逃避するように、もやしを育て始めた。

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