第20話 無職もやし神、励ましただけで戦争を始めてしまう
勇者パーティーが戻ってきた時、全員の目が死んでいた。
以前のような輝きはない。
あるのは――トラウマだ。
「……また来たのか」
俺は思わず本音を漏らした。
勇者は剣を持っていない。
いや、持てていない。
手が、震えている。
「……あの白いやつは……いるのか」
「もやし二号のこと?」
その瞬間、全員がビクッと跳ねた。
「名を出すな!!」
「思い出すだろ!!」
「夜に夢に出るんだぞ!!」
泣きそうだ。
俺はため息をついた。
「まあ……元気出せよ」
完全に軽い気持ちだった。
「ほら、最近できた新種のもやしあるし」
「栄養価高いし、気分も上がるぞ」
――これが、地獄の始まりだった。
⸻
「……毒味、してもらっていい?」
「え?」
次の瞬間。
勇者パーティー、全員もやしを口にした。
もやし二号が止めるより早く。
「……あ」
俺が声を出した時には、遅かった。
⸻
「ぐ……っ!!」
勇者が膝をつく。
「な、なんだこの感覚……!」
聖女の背中から、黒い影が噴き出す。
「祝福が……侵食されてる!?」
賢者が叫ぶ。
「これは……進化誘発型触媒植物!?
いや、もやしにそんな――」
言い終わる前に。
勇者パーティー、魔物化。
「グルァァァァ!!」
「ヒールが……ヒールが効かない!!」
「羽!? なんで羽が生えて――」
「ごめん!! 品種改良失敗作だった!!」
俺の謝罪は、誰にも届かない。
⸻
「……敵性変異、確認」
もやし二号が前に出た。
無表情。
無感情。
いつも通り。
「【制圧行動、開始】」
「【拘束蔓バインド・ルート】」
床から白い蔓が伸び、魔物化した勇者たちを絡め取る。
「【浄化衝撃ピュリファイ・インパクト】」
殴らない。
叩き戻す。
魔物化、解除。
勇者パーティー、全員地面に転がる。
「……生きてる?」
「……戻ってる?」
「……夢じゃない?」
俺は慌てて、回復用もやしを差し出した。
「これ食え! 今度は安全なやつ!」
半信半疑で口にする。
――即回復。
「体力……全快……」
「祝福も戻った……」
沈黙。
そして。
勇者が、立ち上がった。
目に宿るのは――怒り。
「……タダで済むと思うなよ」
「いや待て、俺は――」
「王国に報告する」
聖女も頷く。
「これはもう、異端とかじゃない」
「国家危機です」
賢者が低く言った。
「人を魔物に変える植物」
「制御不能な神造兵器」
「……多種族国家の軍事力」
俺は頭を抱えた。
「だから俺は無職だって――」
聞いていない。
⸻
数日後。
王都サンクティア。
王国軍、動員。
勇者パーティー、復帰。
号令が下る。
「多種族国家、討伐」
一方、その頃。
「え、戦争?」
俺は畑で呆然としていた。
「酒の試作してただけなんだけど」
もやし二号が報告する。
「王国軍、進軍開始」
「勇者パーティー、同行」
民が集まる。
「守ります!」
「今度こそ!」
「もやし神の国を!」
異種族も武器を取る。
「恩を返す時だ」
「発酵を守れ!」
「待て待て待て!!」
俺の声は、完全にかき消された。
⸻
こうして。
無職もやし神の知らぬ間に、
•勇者パーティー、トラウマ再燃
•王国軍、全面出動
•多種族国家、結束MAX
全面戦争、勃発。
なお、発端は――
励ましともやしである。
俺は空を仰いだ。
「……女神」
「次は何くれる気だ」
たぶん、
ろくでもない食材だ。
それだけは、確信していた。
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