第19話 無職もやし神の分身(もやし二号)、英雄として祭り上げられるが本人は無言

 もやし二号は、何もしていなかった。


 境界線の少し内側。

 石畳の上に立ち、風に葉っぱを揺らしているだけ。


 ただそれだけで――


「見ろ……」

「あれが……」

「白き守護者……!」


 人々が跪いていた。


「やめろォ!!」


 俺の叫びは、今日も届かない。


「英雄様だ!」

「神の右腕!」

「もやし神の化身!」


「だから違うって言ってんだろ!」


 だが噂は、事実より速い。


 もやし二号が境界で立っていた。

 → 王国騎士団が撤退した。

 → 血が流れていない。

 → つまり“完全勝利”。


 結果。


 英雄誕生。


 本人は無言。

 俺は頭痛。



 そして。


 やってくるのが――

 本物の勇者パーティーだ。


 王都サンクティア公認。

 神殿祝福付き。

 テンプレ通りの構成。


 剣の勇者。

 聖女。

 賢者。

 斥候。


 全員、自信満々。


「異端の神造物を討伐せよ、との勅命だ」


 勇者が、もやし二号を指差す。


「……あれ?」


 聖女が首を傾げた。


「思ったより……細い?」


「見た目に惑わされるな」


 賢者が眼鏡を押し上げる。


「神話級反応が……いや、測定不能?」


「討てばいいんだろ!」


 勇者、剣を抜く。


 その瞬間。


 もやし二号が、初めて動いた。



「……敵性行動、確認」


 淡々とした声。


 そして、一歩前進。


 地面が、波打つ。


 勇者の足が止まる。


「な……?」


 もやし二号、腕を上げる。


 殴らない。

 触れない。


 ただ、振り下ろす。


「【圧砕掌プレッシャー・クラッシュ】」


 空間が歪み、衝撃波が走る。


 勇者パーティー、全員吹き飛ぶ。


「ぐぁっ!?」

「防御結界が紙みたいに!?」

「聖女様!?」


 着地すらできない。


 もやし二号、首を傾げる。


「……弱い」


 追撃。


 足を踏み出し、地面を蹴る。


「【瞬歩しゅんぽ・芽吹】」


 視界から消える。


 次の瞬間。


「【一閃いっせん・白茎断はっけいだん】」


 剣を使わずに威圧だけで、勇者の剣が粉砕された。


「な……俺の聖剣が……!?」


 聖女が叫ぶ。


「や、やめてください! 話し合いを――」


 もやし二号、首を振る。


「敵性存在。排除対象」


 掌を掲げる。


「【生命干渉ライフ・リセット】」


 ――発動未遂。


「ストップ!!」


 俺が割り込んだ。


「それ以上やると死ぬ!!」


 もやし二号、即停止。


「……了解しました」


 勇者パーティーは、震えながら後退する。


「ば……化け物……」

「いや、神……?」

「無理……勝てない……」


 逃げた。


 全力で。

 誇りも使命も置いて。



 静寂。


 民衆が、息を呑む。


 そして――


「英雄だ……」

「勇者を退けた……」

「もやし二号様……!」


「やめろォ!! 二号でいいから様つけるな!!」


 誰も聞いていない。


 もやし二号は、俺を見た。


「……問題、ありましたか」


 俺は、遠い目をした。


「問題しかねえよ……」


 こうして。


 無職もやし神の分身は、

 正式に“勇者以上の英雄”として認識された。


 なお、本人は無言。

 俺は胃痛。


 次に来るのは、たぶん――


「……神殿、だよな」


 世界は、今日も勝手に盛り上がっていく。


 もやしのせいで。

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