第18話 無職もやし神、もやしを極めすぎて人型になりました(なお本人は想定外)
もやしは、奥が深い。
これは無職もやし神として祭り上げられた俺が、ここ数日で悟った真理だ。
「……品種、増えすぎじゃね?」
小屋――もはや小屋とは言えない、勝手に拡張された研究棟の中で、俺は並んだもやし畑を見下ろしていた。
白もやし。
太もやし。
細もやし。
発光するもやし。
風属性もやし。
火に強いもやし(なぜか燃えない)。
どれも俺の意図したものではない。
異種族の連中が「この品種には雷属性を」「発酵させた方が神聖では?」とか勝手に口出ししてきて、気づいたらこうなっていた。
「もやしは……野菜だぞ?」
何度言っても通じない。
ドワーフは言った。
「硬度が足りん」
エルフは言った。
「生命の流れが美しくない」
リザードマンは言った。
「もっと湿度」
結果――
全部盛りになった。
⸻
「で、なんで魔法陣まで描いてるんだ?」
床に描かれた円陣を見て、俺は嫌な予感しかしなかった。
「これは“生命安定陣”です」
真顔で答えたのは、いつの間にか常駐している人間の魔導学者だった。
「品種改良が進みすぎまして」
「もやし単体では存在が不安定に」
「不安定な野菜って何だよ」
「ですので――」
学者は、言ってはいけないことを言った。
「人型に固定しようかと」
「やめろ」
即答だった。
「もやしは野菜だ」
「人型にする必要は一切ない」
だが、周囲の反応は違った。
「神の御姿……!」
「ついに形を得るのか」
「これは信仰的に正しい流れ」
「正しくねえよ!」
誰一人、止まらなかった。
魔法陣が光る。
発酵槽が泡立つ。
なぜか納豆菌が追加投入される。
「待て待て待て待て!」
俺が止めるより早く――
もやしが、立ち上がった。
⸻
白い。
やたら白い。
細身だが、無駄がない。
人型だが、服は着ていない。
……いや、葉っぱが巻き付いている。
「……おい」
目が、開いた。
黄緑色の瞳。
無表情。
そして。
「……命令を」
俺を見て、そう言った。
「喋った!?」
研究棟が、沈黙する。
次の瞬間。
「神の眷属だ!!」
「もやしの化身!」
「聖なるホムンクルス!!」
「だからやめろって言っただろ!!」
俺の悲鳴は、完全に歓声にかき消された。
⸻
とりあえず、外に出した。
危険すぎる。
だが、もっと危険だった。
「……試しに、動いてみろ」
俺が言うと、もやしホムンクルスは一歩踏み出し――
地面が、陥没した。
「え?」
次の一歩で、十メートル先の岩が消し飛んだ。
殴っていない。
触れてもいない。
圧だけで粉砕された。
「……ステータス見せて」
魔導学者が震え声で言う。
表示された数値を見て、全員が固まった。
「……神話級」
「いや、測定不能です」
俺は頭を抱えた。
「なんで野菜がチート生物になるんだよ……」
⸻
その日のうちに、噂は広まった。
無職もやし神、
ついに自分の分身を作り出した。
王都サンクティアにも情報は届いたらしい。
「異端の自己神格化」
「神殿の教義に反する存在」
「即時討伐対象」
だが――
討伐隊は、境界に入った瞬間に撤退した。
理由は簡単だ。
もやしホムンクルスが、立っていたから。
何もしていない。
ただ、立っているだけ。
それだけで、誰も一歩も近づけなかった。
⸻
「……なあ」
俺は、本人(?)に聞いた。
「お前、名前あるのか」
少し考えてから、もやしホムンクルスは答えた。
「ありません」
「だよな……」
俺もない。
沈黙。
「……じゃあ、お前は――」
考えるのが面倒になった。
「もやし二号でいいか」
「了解しました」
即答だった。
その瞬間、周囲がざわつく。
「神が名を与えた……」
「第二の聖名……!」
「違う! 適当だ!」
もう遅かった。
こうして。
無職もやし神は、
チート級のもやしホムンクルスを生み出した張本人として、
さらに誤解されることになる。
なお本人は、ただこう思っていた。
「……これ、どうやって処分すればいいんだ?」
世界は、今日も勝手に一線を越えていく。
もやしのせいで。
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