第16話 属性もやしで酒を造ろうとしたら、多種族会議になって最終的に飲んだ奴らが全員おかしくなった件

 発端は、完全に軽い思いつきだった。


「……属性ついてるなら、酒にしたらどうなるんだろ」


 俺が焚き火の前でそう呟いた瞬間、

 周囲の空気が変わった。


「酒だと……?」


 ドワーフが、ゆっくり振り向く。


「発酵、という概念なら我らの専門だ」


「いや、待て」


 エルフが即止める。


「植物に魔力属性を付与したものを発酵させるなど、

 自然法則への冒涜だ」


「面白そうじゃねぇか」


 獣人が笑った。


 この時点で、もう止まらなかった。



 まず試したのは、水属性もやし酒。


 刻んで、潰して、自然発酵。


 結果――


「……薄い」


 全員、無言。


「ただの水だな」


「いや、水以下だ」


 失敗。



 次、火属性もやし酒。


 ドワーフ式で高温管理。


 結果。


「辛っ!!」


 飲んだ瞬間、喉が焼ける。


「酒じゃねぇ、武器だ!」


 獣人が咳き込む。


 失敗。



 風属性は発酵途中で揮発して消えた。


 土属性は重すぎて沈殿し、

 飲める前に壺が割れた。


 **発酵属性(納豆菌)**は――


「くっさ!!」


 テントが一つ、避難区域になった。



「……ダメだ」


 俺は地面に座り込む。


「属性同士が喧嘩してる」


 そこで、誰かが言った。


「単一でやるからだ」


 キノコ族だった。


「我々は、複合発酵をする」


 全員が振り向く。


「……複合?」


「はい」


「菌、温度、魔力、時間を分ける」


 急遽、多種族合同もやし酒会議が始まった。



 ドワーフ:温度管理

 エルフ:魔力循環

 獣人:嗅覚チェック

 キノコ族:菌選定

 人間:記録係(酔ってない)


 そして俺。


 もやしを刻む係。



 三日後。


 壺を開けた瞬間。


「……静かだ」


 香りが、ない。


 いや、違う。


 澄んでいる。


 透明に近い淡金色。


「……飲めるぞ、これ」


 最初に口を付けたのは、ドワーフだった。


 一口。


 二口。


 三口。


 そして――


「……おかしい」


「なにが」


「酔わん」


 全員、固まる。


 次、獣人。


「……頭が、冴える」


 エルフ。


「魔力の流れが……整う」


 キノコ族。


「……寿命、延びてません?」


 最悪の報告が出た。



 その瞬間、遅れて効果が来た。


 全員、同時に倒れた。


「え?」


 死んだかと思った。


 が。


「……あ」


 ドワーフが起き上がる。


「筋肉が……軽い」


 獣人が跳ねる。


「視界が広い!」


 エルフが呟く。


「自然との一体感が……」


 キノコ族。


「胞子が……元気です」


 何だそれ。



 鑑定結果。


・疲労完全回復

・状態異常耐性上昇

・魔力回復(継続)

・集中力向上

・睡眠不要(六時間)

・副作用:酔わない


「……酒じゃねぇ」


「覚醒薬だ」


「いや、宗教案件だろ」


 全会一致だった。



 当然、噂は広がった。


「もやし神の酒を飲むと、倒れて強くなる」


「倒れるのが儀式らしい」


「飲み会=修行」


 誰がそんな設定にした。



 神殿は、即反応した。


「発酵は異端」


「酒は堕落」


「しかも酔わないなど、神の意志に反する」


 意味が分からない。



 だが民の反応は違った。


「神殿の酒は酔うだけ」


「もやし酒は翌日も元気」


「どっちがありがたいか分かるだろ」


 論破だった。



 俺は、壺を見つめて呟く。


「……酒造るつもりだったんだけどな」


 横で誰かが言う。


「国宝ですね」


「宗教的聖杯です」


「輸出禁止にしましょう」


 やめろ。



 こうして。


 属性もやし酒は完成した。


 飲むと倒れる。

 起きると強くなる。

 酔わない。


 酒とは何か。


 誰も分からなくなった。


 そして俺は、今日も無職だ。


 もやしと酒を量産しているだけで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る