第15話 国旗の色を決めようとしたら内戦が始まりかけたが、無職もやし神は属性付与に忙しかった件
国名が決まらなかった国には、当然だが国旗もなかった。
だが――
それを「問題だ」と思った者たちは、思った以上に多かった。
⸻
「国旗がない国は、国として認められません!」
人間側の元王国官僚が、力説する。
「式典で掲げるものがない! 儀礼が成立しない!」
「敵味方の識別もできない!」
その言葉に、獣人族が頷く。
「戦場での視認性は大事だな」
いや戦場を想定するな。
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「では、色を決めよう」
誰かが言った。
それが、全ての始まりだった。
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「緑だ」
エルフが即答した。
「芽吹きと再生の色。自然の象徴」
「異論は?」
ドワーフが鼻を鳴らす。
「却下だ。緑は未熟の色」
「我らは熟成と完成の民」
「よって、茶色だ」
「地味すぎる!」
商人代表が叫ぶ。
「遠目で見えない!」
「なら金だ!」
「富と繁栄の象徴!」
その瞬間、全方位から殺気が飛んだ。
「金は貴族の色だ!」
「王国の匂いがする!」
「却下!!」
⸻
「白はどうだ」
神殿系もやし信徒が言う。
「聖性と清浄の象徴」
即、反論。
「白は汚れが目立つ!」
「戦場向きじゃない!」
「そもそも聖とか言うな!」
⸻
色が出るたび、感情が出る。
感情が出るたび、派閥が増える。
開始十五分で――
色派閥、七つ。
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「赤は血と情熱!」
「黒は威厳と影!」
「青は理知と安定!」
「黄色はもやしの根元!」
「それ色なのか!?」
⸻
広場の中央。
俺は、地面にしゃがんでいた。
もやしを見ながら。
「……おお、これ伸びいいな」
横で怒号が飛び交っているが、正直どうでもいい。
国旗なんて、布だ。
食えない。
⸻
「神よ!」
誰かが俺に詰め寄る。
「あなたは、どの色をお望みですか!」
「望んでない」
即答した。
「え?」
「どれでもいい」
その瞬間。
「神は無色を望んでおられる!」
「いや、全色を包含するという意味だ!」
「つまり虹だ!」
「いやそれ派手すぎる!」
勝手に解釈され始めた。
⸻
もういい。
俺は立ち上がった。
「……ちょっと、魔法使えるやつ来て」
騒ぎが一瞬止まる。
エルフ、ドワーフ、人間、獣人、キノコ族。
属性魔法使いが、ずらっと集まった。
「何用だ、もやし神」
「もやしに、属性つけてみようと思って」
全員、沈黙。
「……国旗の話では?」
「どうでもいい」
正確には、興味がない。
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「属性付与って、普通は武器とか……」
「じゃあ、もやしに付ける」
理屈は単純だ。
魔力を流す。
品種を分ける。
反応を見る。
やってみよう。
⸻
最初は火属性。
結果――
「……赤もやし?」
ピリ辛。
食うと体温が上がる。
寒冷地で大人気。
「保存性が上がっている……?」
商人がざわつく。
⸻
次に水属性。
青白いもやし。
「水分保持が異常だ……」
茹でなくても瑞々しい。
脱水症状の特効。
医療派が泣いた。
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風属性。
細く軽い。
「……浮いてる?」
袋に入れても重くならない。
運搬革命。
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土属性。
太い。
栄養密度が異常。
「これ一本で三日持つぞ……」
農民が崩れ落ちた。
⸻
最後に、誰かが言った。
「……発酵属性は?」
俺は納豆キットを取り出した。
「やるか」
やった。
結果。
「……紫?」
香りが強烈。
だが――
「魔力回復量、異常値!」
「疲労回復、即時!」
「なんだこれは!!」
戦場向きすぎる。
⸻
その頃。
国旗派閥は――
「赤派は火もやし支持!」
「青派は水もやし!」
「全部入れろ!」
「それ旗か!?」
完全に別の戦争に移行していた。
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俺は、焚き火の前で呟く。
「……国旗より、もやしの方が国をまとめてない?」
誰も否定しなかった。
⸻
最終的に決まった。
国旗は――
白地に、もやしの線画。
理由。
「どの属性でも塗れるから」
妥協の産物だ。
⸻
なお。
後世ではこう記録される。
《国旗論争は三日続いたが、
もやしの品種は三日で七属性に進化した》
《神は政治に興味を示さなかった》
《それが、この国を救った》
俺は、今日も無職だ。
ただ、属性もやしが増えているだけで。
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