第14話 国名を決めようとしただけなのに、三つの宗教と五つの派閥が誕生した件
国ができた。
理由は知らない。
だが、できた。
問題は次だ。
「……国名、どうする?」
俺のその一言で、世界が壊れた。
⸻
会議は、焚き火の周りで行われた。
参加者は――
人間、ゴブリン、ドワーフ、エルフ、獣人、なぜかキノコ族。
誰も椅子を用意していない。
だが、全員やる気だけはある。
「国には名が必要です!」
最初に立ち上がったのは、人間の商人代表だった。
「王国と条約を結ぶにも、書類上の名称が!」
分かる。
それは分かる。
「じゃあ……適当に」
俺が言いかけた瞬間。
「適当など、許されぬ!」
ドワーフが立ち上がった。
「名とは魂だ!」
「我らは鍛え、育て、熟成させる国!」
「よって――
**《発酵王国ドゥル=バルム》**がふさわしい!」
ざわっ。
「待て」
今度はエルフが静かに立つ。
「発酵は時間に抗う行為」
「自然の循環を尊ぶ我らとしては――」
「**《芽吹きの連邦リーフ=モア》**が正しい」
ざわざわっ。
「いやいやいや!」
獣人代表が叫ぶ。
「腹が満たされる国だろ!?」
「だったら――
**《満腹同盟グルム》**だ!」
「軽すぎる!!」
人間側から怒号。
⸻
ここで、ゴブリンが小さく手を挙げた。
「……神の名、入れないのか」
全員、沈黙。
嫌な予感がした。
「もやし神様の御名を冠するのは当然では?」
キノコ族が頷く。
「胞子もそう言っている」
言ってない。
「つまり――」
神殿発酵派の元司祭が立ち上がる。
「《聖発酵神国モヤシア》」
その瞬間。
「却下!!」
俺は叫んだ。
「それだけはやめろ!!」
だが、遅かった。
⸻
宗教が、生まれた。
第一派
正統もやし信仰
•神はもやしを与えた
•国名に神名必須
•納豆は聖具
第二派
発酵解釈派
•神は“時間”そのもの
•発酵こそ神意
•国名に熟成要素必須
第三派
実利派
•名前はどうでもいい
•商売できればいい
•略称重視
三つ巴。
開始、五分。
⸻
「では多数決を!」
誰かが言った。
即、否決。
「神意は数では測れぬ!」
「自然は票を持たない!」
「腹は待ってくれない!」
意味不明。
⸻
俺は、焚き火の横で小声で言った。
「……もう『国』でよくね?」
誰も聞いていなかった。
⸻
最終的に、紙に候補が並んだ。
1.聖発酵神国モヤシア
2.芽吹き連邦リーフ=モア
3.発酵王国ドゥル=バルム
4.満腹同盟グルム
5.無職自治領(※誰が書いた)
五番に丸が集中しかけた瞬間――
「それは神を冒涜している!!」
なぜだ。
⸻
最終手段が出た。
「神に聞こう」
全員が、俺を見る。
「……俺?」
「はい」
「神様ですよね?」
違う。
だが、違うと言っても信じない目だ。
⸻
「じゃあ……」
俺は、観念した。
「じゃあ、こうしよう」
全員、息を呑む。
「正式名称は――
未定」
沈黙。
「通称は――」
一拍。
「もやしの国」
……。
……。
……。
「……分かりやすい」
誰かが言った。
「争わない」
誰かが頷く。
「腹が減らない」
誰かが泣いた。
⸻
こうして。
正式名称未定。
通称「もやしの国」。
史上初の、
仮称が定着した国家が誕生した。
なお。
後世の歴史書にはこう書かれる。
《国名を決められなかったことが
この国の最大の強みであった》
俺は、その日も無職だった。
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