第13話 神殿が勝手に割れて、俺の名前で講和が結ばれ、気づいたら多種族国家ができていた件

 王都サンクティアの神殿は、朝から騒がしかった。


 怒号。

 机を叩く音。

 祈りの言葉が途中で途切れる声。


 原因は一つ。


「発酵は――異端である!!」


 老司祭が叫んだ。


「腐敗を神聖視するなど、秩序への冒涜だ!」


 その瞬間、別の司祭が立ち上がる。


「違う!」


「発酵とは、神が“待て”と与えた試練だ!」


「時間と信仰を乗り越えた者に、恵みが熟すのだ!」


「それは納豆の話だろうが!!」


 神殿は、真っ二つに割れた。



 片や――

 発酵異端断罪派。


「臭い」

「糸を引く」

「見た目が不浄」


 片や――

 発酵神意解釈派。


「長期保存できる」

「体調が良くなる」

「神の設計が美しい」


 議論は三日続き、

 四日目に――殴り合いになった。


 なお、どちらの派閥も

 無職もやし神本人に確認はしていない。



 一方その頃。


「……これ、うまいな」


 俺は焚き火の前で、もやし味噌スープを飲んでいた。


 知らない間に、世界が荒れている。



 王国側も、当然パニックだった。


 会議室。


「神殿が内輪揉め」

「騎士団は撤退済み」

「異種族は団結」


「……誰が悪い」


 沈黙。


 そして、誰かが言った。


「……無職もやし神」


 満場一致だった。



「だが、殺せない」

「むしろ近づけない」

「下手に触るとまた暴動」


 重苦しい空気の中、宰相が言った。


「……隔離しよう」


「隔離?」


「与えてしまえ。土地を」


 その案は、即決だった。



 数日後。


 俺の前に、王国使者が現れた。


 やたら丁寧。

 やたら腰が低い。


「無職もやし神殿下」


「殿下!?!?」


「この度、王国より正式に領土を授与いたします」


 地図を広げられる。


 森。

 丘。

 川。


 見覚えがある。


「……ここ、今いる場所だよな?」


「はい」


「じゃあ、今までと何が違う?」


「国です」


「は?」



「異種族自治を認め」

「王国干渉は最小限」

「税は免除」

「ただし――」


 一拍。


「二度と王都に来ないでください」


 あまりに正直だった。


「いや、行かねぇよ!?」



 その瞬間。


 周囲で歓声が上がった。


「国だ!!」

「俺たちの国だ!!」


 俺は、置いていかれている。


「……誰が王になるんだ?」


 全員が、俺を見る。


「……やめろ」


「もやし神様!」


「それしかいない!」


「俺、無職だぞ!」


「象徴でいいです!」


 象徴って何だ。



 その日の夜。


 勝手に講和文書が作られていた。


《無職もやし神の名において

 異種族連合国家の成立を宣言する》


「俺、サインしてない!!」


「大丈夫です! 信仰で補完しました!」


 意味が分からない。



 翌朝。


 神殿から使者が来た。


 発酵神意派だった。


「我々は、あなたを正式な神格として――」


「やめろ!!」


 断罪派も来た。


「異端だが、もう触れない」


 結果――

 両方とも撤退。



 こうして。


 王国は問題を“外に出し”

 神殿は問題を“見なかったことにし”

 異種族は勝手に国家を作り――


 俺は、焚き火の前で言った。


「……なんでこうなるんだ」


 誰も答えなかった。


 ただ、もやしは今日も育つ。


 平和に。

 無職のまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る