第12話 異種族合同もやし&発酵祭が、なぜか国家反逆罪になった件

 最初は、ただの祭りだった。



「発酵!」

「もやし!」

「豆ぇぇぇ!!」


 森の広場は、完全におかしかった。


 焚き火。

 鍋。

 樽。

 壺。

 石臼。


 エルフが味噌を混ぜ、

 ドワーフが巨大鍋で煮込み、

 獣人が樽を担いで走り回る。


「納豆は右だ! 右!」

「それはヨーグルト用だ、混ぜるな!」

「糸が切れた!? やり直しだ!!」


 叫び声が飛び交う。


 旗まで立っていた。


《第一回

 異種族合同

 もやし&発酵祭》


 誰が許可したのか?

 知らない。


 誰が主催なのか?

 知らない。


 俺は、端っこで座っていた。


「……俺、関係者じゃないからな?」


 誰も聞いていなかった。



「もやし神様!」

「こちらの発酵キノコをどうぞ!」

「豆の祝福を!」


「いや、だから名前……」


 いつの間にか、俺の周りだけ露店が形成されている。


 完全に中心。


 完全に御神体。


「……なんでだよ」


 もやしを齧りながら、俺は空を見上げた。



 その時だった。


 地鳴り。


 金属音。


 整然とした足並み。


 森の外から、王国騎士団が現れた。


 百はいる。

 重装。

 軍旗。


 空気が、一気に冷える。


 先頭に立つ男が、声を張り上げた。


「王国騎士団である!」


「この集会を即刻解散せよ!」


「当該人物――」


 剣先が、一直線に俺を指した。


「無職もやし神を名乗る者を

 国家反逆罪の容疑で拘束する!」



「……は?」


 俺の声は、完全に素だった。


「ちょ、待て」

「俺、飯作ってただけなんだが」


 だが、騎士団長は聞く耳を持たない。


「異端発酵を広め」

「神殿の権威を貶め」

「異種族を扇動し」

「無許可集会を主導した!」


「全部してねぇ!!」


 完全に言いがかりだ。



 だが。


 怒ったのは、俺じゃなかった。


「ふざけるな!」


 最初に吠えたのは、ドワーフだった。


「俺たちの酒場を潰す気か!」


「祭りを奪うな!」


 獣人が前に出る。


「腹を満たして何が悪い!」


「子どもが笑ってるのが見えねぇのか!」


 エルフが、静かに弓を引く。


「……彼は、何も強制していない」


「我々が選んだだけだ」


 空気が、張り詰める。



 騎士団長が叫ぶ。


「逆らえば反逆だ!」


 その瞬間。


 誰かが言った。


「じゃあ、反逆でいい」


 ――終わった。



 異種族が、動いた。


 ドワーフが盾を構える。

 獣人が前線に出る。

 エルフが森に溶ける。


 いつの間にか、陣形ができている。


「……ちょっと待て」


 俺は立ち上がった。


「話し合おう?」

「剣いらないだろ?」


 だが、誰も聞いていない。


 なぜなら――


「総大将は下がってください!!」


「え?」


「御神体に何かあったら終わりです!!」


「待て待て待て!!」


 いつの間にか、俺は守られる側になっていた。



 戦闘は、始まった。


 だが、異様だった。


 誰も俺に指示を仰がない。

 誰も命令を求めない。


 勝手に動く。

 勝手に連携する。


 しかも。


「もやし神様が見てるぞ!!」

「納豆を信じろ!!」


 士気が異常に高い。



 一方、騎士団。


「なぜ……押されている!?」


 理由は簡単だ。


 全員、飯を食っていた。


 発酵食品バフ。

 もやし回復。

 スタミナ無限。


 対する騎士団は、通常食。


 勝てるわけがない。



 数刻後。


 騎士団は、撤退した。


 死者なし。

 捕虜なし。


 ただ、完敗。



 静寂。


 そして――


「勝ったぞおおおお!!」


 大歓声。


 俺は、頭を抱えた。


「……俺、何もしてない」


 誰かが肩を叩く。


「それでいいんです」


「え?」


「神は、そこにいるだけでいい」


「俺は神じゃない!!」


 声は、歓声に掻き消された。



 その夜。


 焚き火の前。


 俺は、もやしを食っていた。


 遠くで、異種族が踊っている。


「……どうしてこうなった」


 空から、声。


「うん、あのね」


 女神だった。


「もう修正無理」


「投げるな!!」


「だって、祭りで軍返したらもうさぁ!」


 俺は、ため息をついた。


 こうして。


 異種族合同もやし&発酵祭は、

 国家反逆事件として記録され。


 俺は――


「無職」

「無名」

「総大将」


 という、意味不明な存在になった。


 次の日も、俺は飯を作る。


 世界が勝手に戦う中で。

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