第3話

翌日から、ユウタの生活は一変した。


毎晩8時、紀伊國屋書店の4階で劉さんと会い、

占いの基礎を叩き込まれる日々が始まった。


「まずはタロットからです」


劉さんは力強く言った。


「タロットは絵があるので分かりやすく、初心者でもすぐに占えるようになります」


「そうなんですね。でもタロットってたくさんありますよね。どれを選べば……」


劉さんは本棚から『タロットの宇宙』という分厚い本を取り出しながら


「マルセイユタロット、一択です」


と言った。


「真のアルカナを伝えるのはマルセイユだけですからね。易とかは、あなたが占いに慣れて月収50万円を超えてから学べばいい。」


「月収50万…そんなに稼げるんですか?」


「段階を踏めば可能です。今は月収5万円を目標にしなさい」


劉さんは、タロットの大アルカナ22枚のカードを一枚一枚、丁寧に解説してくれた。


「大アルカナ22枚は、この世界の見方、そして人生の大きな流れを示します。それぞれが象徴する大きな意味を知るのです。『愚者』は純粋にして自由。『魔術師』は活発で新しい試みをする若者。『女教皇』は正しい教えを求め受け入れる……」


ユウタは必死にメモを取った。

毎晩30分の特訓。劉さんの教え方は、無駄がなく、実践的だった。


「タロットで大切なのは、カードの意味を暗記することではありません。『連想する力』『物語を紡ぐ力』を磨くのです」


「あの〜そろそろ閉店なんですが」

店員さんが躊躇いがちに声をかけてきた。

「承知しております」

劉さんは何があっても穏やかな口調を崩さない。

「では、ユウタさん、実際にどう占うのかを教えます。コメダ珈琲に行きましょう」


劉さんは、コメダブレンドたっぷりサイズを美味しそうに飲みながら、ワンオラクルから始めて、ペアカードを使った占い方、そしてマルセイユタロット独自のフレンチメソッドなどを教えてくれた。


「このカードの組み合わせから、どんな物語が見えますか?」


最初は全く答えられなかった悠太も、1週間後にはスムーズに物語を語れるようになっていた。


「よろしい。あなたにはやはり才能がある」


劉さんは満足そうに頷いた。


「次は、SNSアカウントの開設です」


ユウタはTwitter、Instagram、TikTokのアカウントを作った。

アカウント名は「タロットユウタ」。


「……ダサくないですか?」

「自分の名前に誇りを持ちなさい。素敵な名前ではありませんか」

「あ、ありがとうございます」

「毎日、タロットのワンオラクルを投稿しなさい。簡潔に、希望を与える言葉で」


劉さんは、投稿のテンプレートまで教えてくれた。


最初はフォロワーが10人しかいなかった。

でも、毎日投稿を続けるうちに少しずつ増えていった。


「よし、そろそろココナラで鑑定を始めましょう。価格は500円。最初は実績を積むことが目的です」


ユウタは緊張しながら、ココナラに鑑定サービスを出品した。


「恋愛の悩み、タロットで占います!500円」


最初の依頼が来たのは、出品から3日後だった。


「20代女性、彼氏との関係に悩んでいるようですね」


劉さんは、依頼内容を見て言った。


「さあ、カードを引いて、鑑定しなさい」


ユウタはカードを引いた。

『恋人』『星』『神の家(塔)』


「うーん…『神の家』が出てるから、別れた方がいいってことかな?」

劉さんは首を振った。

「そういう読み方も出来なくはないですが……」


「まず正逆を見ましょう。3枚とも正位置で出ていますね。ということは、依頼者の方は悩んでいらっしゃるようですが、そんなに悪い状態ではないということが読み取れます。過去の位置に『恋人』が出ています。これはそのまま過去の恋人との良好な関係を示していると言えるでしょう。その次に『星』が出ている。調和、寛容、豊穣などを示すカードで、なおかつ女性の願い全般を司どるものです。現状も悪くなさそうです」


「でも、関係性に悩んでいるんですよね?」

「そうです。いいところに気づきましたね。カードの意味を考えるあまり、質問を忘れてしまっては意味がありません。関係性に悩んでいるということは、最重要なのは今後、つまり『神の家』です。」

「なるほど……」

「ユウタさん、この『神の家』をみて思い浮かんだ言葉を言ってください」

「人が2人描かれていますよね。ってことは、これは依頼者と彼氏さんなんじゃないかと思います。『神の家』から出てる2人……引っ越し、ですか」

「素晴らしい」

「で、でも、そんな見方をしてもいいんですか!?」

「いいんです。これが連想の力、物語を紡ぐ力です。さあ、鑑定文を書きましょう」


ユウタは鑑定文を書いて、劉さんに見せた。

「鑑定文には一定の型がありますが、それだけでは機械的で冷たい印象を与えてしまいます。依頼者に語りかけるように書くのです」


ユウタはアドバイスを受けて再度、鑑定文を書き直して見せた。

「これでよいです。では送りましょう」


鑑定を送信すると、その日のうちに5つ星のレビューが付いた。


「ありがとうございます!すごく当たってました!」


ユウタは初めて、自分の言葉で人を喜ばせることができた実感を持った。


1ヶ月後。


ユウタの収入は、ココナラで月20件(1万円)、SNS経由で月10件(8000円)。合計1.8万円だった。


「月収5万には届きませんでしたが…」


「十分です。1ヶ月目としては上出来。次の1ヶ月で、月収10万円を目指しましょう」


「はい!家賃が払えるくらいには稼ぎたいです」


劉さんは満足そうに頷いて、コメダブレンドたっぷりサイズを飲み干した。

(続く)

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