第4話 幻想を撃ち抜く鉄

 凍てついた洞窟内が吹雪の猛威で満たされる。

 魔人が放つ氷の槍が無数に降り注ぐ中、俺たちは一点突破の陣形を組んだ。


「援護する。……隙を作って」


 セツナが跳躍した。

 彼女は氷壁を駆け上がり魔人の巨大な頭部へと肉薄する。ナイフの一閃。しかし刃は魔人の身体をすり抜けるだけで手応えがない。

 魔人は実体のない煙と霧の集合体だ。物理的な斬撃など通用しない。


『無駄だ無駄だ!物理攻撃など我には効かぬ!凍りつけ!』


 魔人が腕を振り払うと冷気の衝撃波がセツナを襲う。

 だがその直撃コースに黄金の輝きが割って入った。リーゼロッテだ。


「聖女様の未来を阻むモノは、神だろうが悪魔だろうが叩き斬るッ!」


 彼女は全身から白銀の闘気オーラを立ち昇らせ、冷気の奔流ごと魔人の腕を叩き落とした。霧散する腕。だが即座に周囲の吹雪を集めて再生してしまう。


「チッ、埒があかないわね!なら魔法はどう!?」


 ヴェロニカが炎熱の魔法陣を展開し火球を撃ち込む。

 着弾。水蒸気爆発が起きるが、魔人の身体は揺らぐだけで決定的なダメージにはならない。


『ハハハ!貴様らの魔力など、我の爪の垢ほどにも及ばぬわ!』

「……そうですか。魔力スペックで勝てないなら、熱量カロリーで押し切るまでです」


 俺は冷静にパイルバンカーを構え直した。

 普通の攻撃が通じないなら、規格外のエネルギーをぶつければいい。

 この『罪咎』には、まだ試していない限界稼働モードがある。


「バレット、行きますよ!」

「ギャオォォッ!!」


 俺の合図に応え、懐から飛び出した幼竜バレットがパイルバンカーの機関部シリンダーにしがみついた。

 その小さな身体が赤熱し、喉奥に紅蓮の炎が溜まる。


強制排熱フル・ヴェント開放。……竜熱同調リンク開始!」


 俺はドレスの裾が焦げるのも構わずに排熱レバーを引き絞った。

 同時にバレットが高熱のブレスを機関部へ直接吐き込む。

 外部と内部、双方からの異常加熱。パイルバンカー内部の聖水蒸気圧が臨界点を突破し、鉄杭そのものが溶岩のように赤く輝き始めた。


 熱い。熱すぎる。

 右腕が焼けるような痛みに襲われるが、この出力には俺の細腕一本では耐えられない。


「全員集合! 私の『楔』になりなさい!」

「ハッ!」


 俺の号令に、散らばっていたヒロインたちが即座に集結した。

 リーゼロッテが背後から俺の体を抱きかかえるようにして支える。硬い甲冑越しだが、その奥にある彼女の高ぶった心拍と熱気だけは背中越しに伝わってくる。

 セツナがスライディングで股下に潜り込み俺の太腿をロックする。

 ヴェロニカが横から身体を密着させ、俺の右腕に自分の胸を押し当てて固定する。


 全方位からの密着。四人の体温と匂いが混ざり合う。

 これはもはや戦闘陣形というより肉の要塞だ。


「……随分と、積極的な固定ロックですね」

「聖女様をお守りするためです!不純な動機など……っ!」


 耳元でリーゼロッテの荒い息がかかる。全員、戦闘の高揚感と密着の背徳感で瞳が潤んでいた。

 だがこれで軸は定まった。


『何だその熱量は!?我が支配する零度の空間で、何故それほどの熱が生まれる!?』


 魔人が初めて動揺を見せた。

 実体のない霊体であろうと「熱」による干渉からは逃げられない。大気そのものを焼き尽くすほどの高温の前では、氷の身体など蒸発する運命にある。


「これが人間様の知恵ですよ、化け物。……過去の栄光に縋って冷え切った貴方の魂を、私たちのネツで焼き尽くして差し上げます!」


 俺たちは一斉に地面を踏みしめた。

 四人一丸となって重心を固定。聖女の身体強化と魔力放出、そしてパイルの推進機関を一点に集中させる。


 射線が通った。

 その先に浮かぶのは、魔人の心臓部――黄金のランプだ。


『貴様らァアアッ!!』


 魔人が絶叫し、全身の冷気を集束させて巨大な氷塊を作り出す。

 真正面からの衝突。

 だがこの合体砲の前では全てが無意味だ。


「――消えなさいッ、『幻影ファントム』ッ!!」


 俺は灼熱の開放弁バルブを限界まで開き、引き金を引いた。


「『竜熱の賛美歌ドラグ・ゴスペル』ッ!!」


 ズドゴォォォォォォォォォォォォッ!!


 世界が白熱した。

 鉄杭そのものが飛び出すのではない。杭がピストンのように高速往復し、薬室内の圧縮魔力を光速で叩き出したのだ。

 放たれたのは紅蓮の魔力と純白の蒸気が混ざり合った、直径数メートルにも及ぶ極太の奔流バスター・ビーム


 光の柱が魔人の放った氷塊を瞬時に蒸発させ、その勢いのまま本体を飲み込んだ。


『ぎゃああああああああっ!?熱いッ、熱い熱い熱いッ!!』


 断末魔。

 黄金のランプごと魔人の身体が光の中で分解されていく。

 ビームは止まらない。洞窟の天井、分厚い氷層、そしてその上の吹雪雲までもを一瞬で穿ち、遥か上空へと突き抜けた。


「……過去になど縛られません。私たちは、未来ここを生きているのですからッ!」


 俺の叫びと共に光が収束していく。

 後にはただ灼熱した空気が残るのみ。

 魔人の姿は霧散し、立ち込めていた猛吹雪が熱波によって空の彼方へと吹き飛ばされていた。


 ぽっかりと開いた天井の大穴。

 そこから差し込んだのは、吹雪などなかったかのような、眩しい陽光だった。

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