【カクヨムコン11短編】ダイヤモンドの雨の下で、永遠を誓われても困る!

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続きはまだ思いつかない

 惑星インドラの一部では、ダイヤモンドの雨が降る。

 分解されたメタンが炭素と水素に別れてダイヤモンドの結晶となり、その後ふわふわと地上に落ちてくるのだが、その説明はまあさておいておくとして。

 このインドラにはダイヤモンドが掃いて捨てるほどあるわけだが、中でも珍しいのが『ヴァジュラ』と呼ばれるダイアモンドだ。

 本来ダイヤモンドは電気を通さない鉱物だが、このダイヤモンドの中には他の元素が含まれている事で半導体となっている。また、素晴らしい熱伝導率を誇り(熱伝導率が高いと電子機器の過熱防止となり、機械が長持ちする)、かつて天然ダイヤより優れていると言われていた合成ダイヤも『ヴァジュラ』には敵わない。

 このダイヤモンドはあらゆる分野の機械に使われており、この西暦2300年時代の宇宙に欠かせないものとなっている。

 そんなインドラで俺ことアキラ・シンドウは貨物輸送業に携わっていた。……のだが。


 ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!


「ササキくん!!」


 自動ドアの先には、リンゴをひたすら食べているレッサーパンダ――ササキくんがいた。


『おう、どうしたアキラ。そんな「笹食ってる場合じゃねえ!!」って顔してよ』

『ま、俺は今リンゴを食ってる所なんだが』翻訳AIをつけたササキくんから、ほとんど人間の声と変わらない合成音声が響く。しかし口はひたすらリンゴをかじっている。口の動きと音声が合わなくてシュールだ。

「ごめんね食事中に……でも本当に緊急事態なんだ」

 はあはあと息切れしながら、俺は言った。


「アイツが!! 来る!!」


 ポテ、とササキくんからリンゴが落っこちた。

 そして局地地震が来たかのごとく震え始める。


『おいおいおいおい、それはマジで笹食ってる場合じゃねえぞ!!』

「だから今すぐ逃げよう‼ 船出すから、荷物纏めて準備して!」

『お、おう! わかった!』


 二足歩行でダッシュするササキくんを見送って、俺は空中ディスプレイで今日からの天気を確認する。ダイヤモンドの雨が降れば、そこを避けて通らなければならない。





 今から数年前、俺はある男と結婚した。

 俺より年上だったその男は、人懐っこく、たまに俺よりガキっぽくて、でもやっぱり大人だった。

 世間知らずでガキだった俺は、アイツのプロポーズと、ウン千万もするダイヤモンドの指輪を受け取った。

 本当に何も知らなかったんだ。――そう、例えば地球ではかの大企業の社長だとか。


 そうやって結婚式を兼ねた披露宴で、見たことないようなキンラキンラしている世界に放り込まれて、華々しい人達に囲まれてそつなく笑っているアイツを見て、思った。


 あー、違う世界だこれ。

 今まで薄々感じていたけど、人間って平等じゃないんだな、って。神様の世界に紛れ込んだような気持ちで、そこにいた。


 元々俺は自尊心とか自己肯定感が低くて、だから多分、初めて「好きだ」とか「愛している」とか、「お前しかいない」とか言われて、浮かれていたんだろう。

 あと、当初は混乱していたから分からなかったけど、暫くして自身の置かれた状況を整理したら、「どうしてこんな大事なこと話してくれなかったんだ」と言う怒りも湧いてきた。

 だけど、怒りのままぶつけるのは良くないと思ったんだ。アイツにも何かの事情があって言えなかったのかもしれないと。

 だから理性的に、相手に理解して貰えるように、何度も何度も頭の中で考えて――伝えた。


 あ、悪い。忘れてたわ。


 そう言って、ベッドの上でヘラヘラと笑いながら頬をスリスリして甘えてくるアイツの態度に、目の前が真っ暗になった。

 え、そんな風にアッサリと流されていいやつだと思われたのか? それとも怒る俺がおかしいのか?

 ……いや、怒る俺がおかしいのかもしれない。

 だってコイツは、俺に対して色々してくれて、俺を害そうと思って何かをやった訳じゃない。ちょっとした掛け違いだ。そう思うと、些細な事で怒った自分が恥ずかしくて、――でもモヤモヤは消えないままで。

 このままだと感情的になりそうだと思った俺は、少しアイツと離れて過ごそうと思って、仕事を多めに入れて、その先で俺は見てしまった。


 アイツが別の人間と、笑顔で宝飾店で眺めているのを。

 ……それを見て俺は、折れてしまった。

 浮気だと思った訳じゃない。ただ、なんと言うか、あれだけ縋るように執着していたのに、その時スンと抜けてしまったのだ。



 そうして離婚届を置いて、ササキくんと一緒にすったもんだで逃げてきたのが、この星だった。

 最初ササキくんは『話し合った方がいいと思うぜ……? いや、マジでアイツヤンデレ化するから』と俺を説得していたのだけど、日に日に痩せていく俺を見て『逃げよう』と提案してくれた。

 話し合っても、俺の伝えたい事は伝わらなかったし、こんなドロドロとした気持ちをアイツに知られたくなかった。


 そうして俺はこの星で働き、ひたすらダイヤモンドを車や船で運ぶ事になった。どこも運送業は人手が足りないから、歓迎されたものだ。

 大変だけど身の丈にあった毎日。あと、他の星では貴重な宝石として崇められているダイヤモンドが、この星だと「ありふれた鉱物」という認識で、なんだか救われた。

 こんなヤツがこんなものを受け取っていいのかと散々悩んだけど、売っぱらったり捨てたりするのは更に無理で、ササキくんの言葉もあってとうとう持って行く事にした。

 でもこの星じゃこの指輪は、そんな重いモンじゃないんだな、って。まあその中にも、重要視されるダイヤモンドはある訳だけど。でもやっぱ、見るだけでもキレイだよなと思ったり。素直にそう思えて、気持ちが軽くなった。


 そんな毎日は、ある一通のメッセージで突然終わりを迎える。


 メッセージアプリのIDを変えたハズなのに、アイツからメッセージが届いていた。

 長文なのに簡潔で、それでいて格式ばった文章だった。今どき利用規約や契約書もこんな難しい文章にならねぇぞ、みたいな。

 感情が見えるような柔らかさも怒りのような粗さも見えないのに、文字の節々に圧を感じる。何を言いたいのか把握するのが恐ろしい。


「……ネクサス、これ、書いたやつの一番言いたいことを要約して」


 AIネクサスにそう言うと、空中ディスプレイがピコンと音を立てて起動する。

【要約が完了しました】チャット形式とともに、音声が流れた。



【俺が来るまでそこを動くな(要約)】



『「ひ、ヒィィィ……」』


 読み上げられたAIの要約に、俺とササキくんは震え上がる事しか出来ない。

 こうして、俺たちの追いかけっこは始まった。

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