第6話 転生者は2度刺される

 桔梗との友情、そして俺の穏やかな生活の崩壊を防ぐ代償として、俺は大事な所に顔を突っ込まれてしまいました。


 日を跨いではいるものの、連続で男の大事なところをまさぐられ、顔を突っ込まれるとは思いもしませんでした。


 俺はこれからどういう顔をして桔梗と接すれば良いんだ……。気まずい……。


 大きくため息を吐き、一度気持ちをリセットしてから教室へ入る。


「どうだった!?OKした!?」

「ねぇねぇどうなの!?二人は付き合うの?元からそういう関係だったの!?」

「教えてよ真白ちゃん!私、気になります!」

「ちょっ!?」


 教室に入るや否や、大量の女子生徒に群がられ、入り口から一歩も進めない状態に陥ってしまう。


 この世界は男の数が少ないからか、女性同士での恋愛が普通だ。


 それでいて恋バナが大好きという性質は前世と同じらしい。


 恋愛の香りを察知した女子達は、甘い香りに惹かれた蜂の様にわらわらと寄ってくる。


「いやあの、私と桔梗はそういう関係じゃ──」

「え!?振ったの!?」

「絶対OKすると思ったのにな~」

「いがーい」

「えっと……まだお友達でいたいかなって」


 このままだと俺が桔梗を振ったという事になりそうだったため、俺は曖昧な返事をする。


 これからの進展を匂わせつつ、今はまだ何もないと伝えたのが功を奏したらしい。


 姦しい声で妄想を繰り広げながら、クラスメイト達は各々の席に帰っていった。


 おそらくこれからは桔梗と一緒に居るだけでそういう目で見られたり、仲が良いところを見られる度に、ヒソヒソ話をされたりするのだろう。


 ……1カ月くらい学校休んでも良い?


 絶望に打ちひしがれながらも、俺はお弁当箱を広げる。


 気まずさで頭がどうにかなりそうなのに、お腹は減るんだなぁ。ましろ。


「あむ……あむ……うま、うま。あ──」

「ちょっと良いかしら?」

「んぐっ!?げほっごほっ!?」 


 疲れた心と体を癒すためにご飯を咀嚼していると、いきなり机がバンッと叩かれる。


 口の中に物を入れた瞬間の出来事であり、俺は驚きのあまり盛大に咽せてしまった。


 いきなり台パンとか……礼儀というものを知らないのかまじでっ!


 箸をお弁当箱の上にたたきつけ、急いでペットボトルの中身を口へと流し込む。

 

「けほっ……けほっ……はぁ、はぁ……し、死ぬとこだった……」

「ふんっ!罰が当たったのよ!」

「悪い事をした記憶は全くないんですけど……」


 喉の異物感を堪えつつ、苦笑いと共に顔をあげると頬を小さく膨らませ、こちらを睨みつける美少女が居た。


 ツーサイドアップアレンジがされた金色の髪は、窓から差し込む光を吸収しキラキラと輝きを放っている。


 美白という言葉が真っ先に思い浮かぶ綺麗な肌、お母さんの物とは違う淡い輝きを放つ紫色の綺麗な瞳。


 不機嫌さを取り除けば、お人形の様に可愛い女の子になるだろう。不機嫌ささえ取り除けば。


「それで……一体どうしたの梨沙りさ。なんでそんなに機嫌が悪いの?」


 彼女の名前は熊谷梨沙くまがいりさ。中学1年生の時からの友人だ。


 内面は全くと言って良いほど共通点はないが、外見は比較的共通点があり、そこから仲良くなった。


 なったのだが……どういう訳か梨沙は時が経つにつれ、俺への態度が厳しいものになった。


 今まではにこやかに会話出来ていたのに、会話の途中でマウントを取って来たり、俺の事を若干貶すような発言をしたりと、どういう訳か強気に接して来る。


 俺は思春期特有のあれかと流しているのだが……かなり思春期が長いんだなぁ。


「それはっ……言わなくても分かるでしょ!」

「え、えぇ……」


 理不尽な発言に思わず困惑の声が漏れる。


 そんな面倒くさい女の子みたいなことを言われても……面倒くさい女の子だったわ。


「えーっとぉ……本当に心当たりがないんだけど、無知な私にご教授願えませんか?」

「それは……場所を変えるわよ」

「えぇ……お弁当食べてる途中なのにぃ~」


 私は梨沙の後を追うようにして教室を後にした。

 

 やって来たのは特別教室が並ぶ棟の階段下。


 掃除用具やら何やらが粗雑に置かれている空間に、俺は連れ込まれてしまった。


「あんた、藤峰とどういう関係なのよ。」

「え?桔梗とは普通に友達だけど?」

「友達って……あんた今日告白されたんじゃないの!?」

「そ、それはぁ……そのぉ……」


 な、なんて言えば良い?実は俺が男で、そのことについて聞かれてましたとか口が裂けても言えないんですけど。


 というか何で俺と桔梗の事をこんなに聞いてくるの?


 もしかして人知れず桔梗に恋心抱いてたの?それならそうと早く言って欲しかったんですけど。

 

「……言えないのね。私には言えない関係を築いてるのね!」


 その通りですぅううう!他人には絶対に言えない関係は築かれちゃってますぅぅうううう!


 梨沙が想像しているものとは違うが、梨沙の言う通り俺と桔梗の間には絶対に言えない関係が生まれてしまった。


 しかしそんなことを知る由もない梨沙は、キッと俺のこと睨みつけ、怒気の籠った声をあげる。

 

「だ、だから私と桔梗はただの友達だってば!それ以上でも以下でもないって!」

「じゃあなんの話をしてたのか私に説明できるわよね?」

「それは……えっとぉ~……こ、これからの二人の関係性について?」

「告白されたってことじゃない!どうせ藤峰に告白されてニヤニヤしながら付き合うかどうかの話をしてたんでしょ!」

「違うから!桔梗とは決してそういう関係じゃないから!!きょ、今日はちょっと告白っぽい事はされたけど、まだ友達で居ようねっていう確認をしただけだから!」


 桔梗には申し訳ないが、ここは桔梗が俺に告白をしたという嘘を吐かせてもらおう。そうじゃないと俺が男であるとバレかねない。

 

 梨沙は割と陽キャ寄りの人間、もし俺が男だとバレたら……周囲の人間にふらっと離しかねない。それだけは絶対に回避しなきゃいけないんだ!


「……ふぅん?まだ、ね?」


 梨沙は俺の「まだ」という言葉を強調し、ぎろりと俺の事を睨みつける。


 美少女から睨まれるのがご褒美だという人間が前世には存在していたらしいが、俺はそういう趣味は持っていない。とても怖い。


 顔が可愛いからギリ耐えられているものの、今すぐこの場から逃げ出したい。……というか逃げ出しちゃおう。


「じゃ、じゃあ私お弁当の残りを食べたいからこの辺で──」

  

 この場を立ち去ろうとした次の瞬間、俺の視界に梨沙の右腕がカットイン。


 それと同時に掃除用具と梨沙の足がぶつかったのか、ガタッという音が響く。


「まだ話は終わってないわよ」

「ち、近い!近いってば!」


 壁ドンからの顎クイ……は無かったが、もう少し近づけば鼻と鼻がぶつかってしまう程、梨沙は一気に距離を詰めてきた。


 うわぁ、肌きれぇ~……というか可愛い。それにいい匂いもするぅ……とか言ってる場合か!


「ちょっわ、分かった!逃げないから!逃げないから一旦離れて!」

「嫌よ。真白が私を騙してる可能性だってあるわけだし」


 俺はどれだけ信用されてないんだ。これでも誠実に対応して来たつもりではあるんですけどねぇ!?


「それに……女の子同士ならこれくらいの距離感普通じゃない」

「ふ、普通……ではないと思うんですけどね?」

「何?藤峰に束縛でもされてる訳?」


 俺の態度が気に入らないのか、ただでさえ強い口調がさらに刺々しいものになる。

 

「いや、されてないけど。その……純粋に梨沙が可愛くて……き、緊張するから」

「っ!そうやってすぐ……はぁ、今に始まったことじゃないし、どうせ藤峰にもそうやって甘いセリフを言ってるんでしょうね」


 梨沙は大きなため息を吐き、私からゆっくりと離れていく。た、助かった……。


「真白」

「な、なに?」


 体を弛緩させていた途中で声を掛けられ、俺は授業で先生に当てられた時の様に背筋をピンと伸ばす。


「覚悟してなさい」


 そう言って梨沙はスタスタと歩いていった。


 桔梗に呼び出され、秘密がバレてしまったものの、友情を守ることに成功した。


 かと思えば、周囲には告白だと勘違いされ、どういう訳か、昔からの友人に人気のない場所に連行され、挙句の果てには宣戦布告までされる始末。


 前半部分はまだ理解できるけど、後半部分に関しては本当に理解できない事象だ。


 可能性をあげるとすれば梨沙が桔梗にただならぬ感情を抱いていたとかだが……桔梗って梨沙と面識あったっけ?


「とりあえず……ご飯食べよ」


 まだお昼だというのに疲労感でいっぱいな体を動かし、教室へ戻る。


 なお、教室に戻ると同時にお昼休みが終わったため、俺はご飯を食べ損ねることになった。げ、解せぬ……。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貞操観念が逆転した世界に転生したら男の娘だった件 ちは @otyaoishi5959

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画