【ハルカ】5

 知っている。

 ネットの世界は楽しい側面だけじゃない。チャンネル登録者が増えると、応援の言葉も多くなるけどアンチだって増える。


『下手すぎ』

『調子のんな』


 SNSの返信欄に紛れる棘だらけのコメントを、ユウジはネットってこういうものだから無視すればいいと言う。

 でも、本当にきついアンチは大衆には見えないように、私だけが見られるメッセージで傷つけようとしてくる。私の歌を徹底的に否定する長文。Haruのキャラ画像を印刷して、ナイフを刺した画像を送られたこともある。

 悪意に満ちた真っ黒のDMボックス。世界には優しい人はたくさんいるけど、同じくらい、怖い人もいるということを理解した。

 こんな悪意に満ちた世界を、私は優しいユウジに見せたくない。


 いま、私には選択肢がある。

 芸能事務所に所属して歌手となる道と、このまま動画投稿を続けていく道。片方は東京での新しい生活で、もう一方は、ユウジとの楽しい生活の延長だ。

 二つの未来を、両方とも掴むことはできない。

 ユウジのささくれのある柔らかい右手をとるのか、それとも銀色に輝くマイクをとるべきなのか。

 片方しかない腕で、私はどちらを掴むべきだろう。



 東京から自宅に戻り、父と夕食を食べている時だった。

「お父さんね、東京の会社に転職しようかなって考えているんだ。学生時代からの友人に起業するから手伝って言われてね」

 きっと、私のために仕事を探したんだろうけど、父は私のためにとは言わない。


 父はたまにこっそりと、私たちが投稿した動画を母の写真の前で流していることを知っている。

 優しい父のもとに生まれて、私は幸せだと思った。

 


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