【ユウジ】6

 ハルカはバンド活動をしつつも、動画投稿は続けていた。僕にとっては彼女と一緒に登録者数十万人目前の「Haru」チャンネルを成長させることがサークル活動みたいなもので、Haruを支えていくことが、僕の頭のメモリのほとんどを占める、生きがいだった。

 伸びる再生数を眺めるハルカの柔らかい笑顔が無限のエネルギーになって、僕の両手を動かしていく。


 だから、ハルカから突然あの事を告げられたとき、僕の頭は急にフリーズして、その場から動けなくなってしまった。



「ユウジに話したいことがあるの」

 僕は台所からコーヒーを二つ持って机に置くと、ハルカは背筋を伸ばして話し出した。コーヒーの湯気の向こうに見える視線が、いつもの彼女と違った。

「スカウトされたんだ。芸能事務所の人に」

「ほんと!? すごいじゃん、おめでとう!」

 僕はそう言いながら、無理やり作った笑顔の裏側で、これがどんな未来につながるのかを想像していた。


 思考が回る。

 ハルカの放った言葉と眼差しは、僕らの関係に唐突な変化が訪れることを知らせようとしている。

「担当の人、高木さんって人なんだけど、動画投稿とかSNSはやめてほしいって。それが活動条件だって言ってた」

 やっぱりそうか。この数秒間の猶予で想像していたシナリオ通りだ。想像通りなのに、僕はハルカの告白に、脳がスタックして次の言葉が出てこない。


「そっか。わかったよ」

 僕が言えた精一杯の言葉。沈黙の中に、コーヒーの湯気が見えるけど、香りなんて分からない。

「じゃ、また連絡するね」

 ハルカはそれだけ言うと、立ち上がって部屋を出ていった。廊下を歩いて玄関を出る音が聞こえた。机の上で、ハルカが飲まなかったコーヒーが湯気を出し続けている。


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