【ユウジ】4

 彼女の歌声を広めるには、それなりの努力が必要なのだ。

 僕は彼女のチャンネルと同じ名前のSNSアカウントを作って、彼女に渡した。同じように歌ってみたをやっている人をフォローして互いに拡散できるようにしようと言うとハルカは分かったと頷いた。

 

 それから、二本目の動画を撮ろうと提案する。前回の動画は歌のタイトルのみが書かれた画像に音源を載せただけだったが、次は絵師さんに頼んでアバターを作ってみようと提案してみた。顔を出さない代わりに、キャラに前面に出てもらうのだ。たぶんVTuberの一種になるのかな。

「その辺、ユウジの方が詳しそうだから任せるよ」

 僕は絵師さんにイラスト作成を依頼できるマーケットプレイスを徘徊し、評判のいい人をいくつかピックアップしてハルカに見せた。彼女の気に入った絵柄の絵師にイラストの作成依頼を送ってみる。

 ハルカらしい、夏の太陽みたいな黄色をイメージカラーにしたデザインをお願いした。

 

 イラストが完成するまでの間に、二曲目の録音に取り掛かる。僕がハルカに提案したのは、

 最近SNSでも話題になっているVTuberのオリ曲。ネット界隈だけじゃなく、地上波でも流れるくらいのヒットで、ハルカも好きな曲らしい。

 録音は、また僕の部屋で行われた。

 二回目の録音だけれども、やっぱりハルカは恥ずかしいようで、僕は頭に毛布を被せられる。

 暗い毛布の世界に届いた彼女の歌声は、前回よりも明らかに上手で、音の一つ一つに鮮明な輪郭があった。この楽曲が得意だからってことじゃない。練習を重ねてきた人の声だ。

 僕は、人には見せない彼女の努力を想像して、ハルカのためにできることは何でもやろうと決意した。


 しばらく経って完成したイラストが届いた。

 僕のイメージした通りの仕上がり。黄色い長い髪の少女が首にヘッドホンを掛けている。ニッと笑った口許が、現実世界のハルカに似ている。

 ハルカも気に入ったそのキャラをサムネに登場させ、二本目の動画を投稿する。公開してからすぐにSNSで新作投稿を宣伝していく。イラストをお願いした絵師さんにも動画投稿の連絡をすると、絵師さんのアカウントでも宣伝してくれた。

 

 動画が百回再生されたのは投稿の翌日で、ハルカからは「もう百回だ!」と喜びのメッセージが届いた。動画のコメント欄には「めっちゃうまい!」「感動しました」など称賛の言葉があった。褒められているのはハルカなのだけれど、自分のことのように嬉しくて、僕はコメントの一つ一つにいいねを押していく。

 ハルカも僕も、一回目の投稿とは明らかに違う手応えに興奮し、すぐに三本目の作成に取り掛かった。


 僕達は動画投稿を続け、SNS発信に取り組み、ショート動画も作るようになった。


 そうして一年ほど経ったとき、チャンネル登録者数は一万人を超えたのだった。

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