【ユウジ】3
やがて歌い終わった彼女は僕の肩をポンと叩いたので、毛布から抜け出し、スマホの画面をタップして録音を止めた。
「どう?」
目の前に立つハルカは、少し顔を赤くしている。
「びっくりした。ハルカって、歌うまいんだ」
彼女は赤い顔を一層赤くすると、口許をニッと三角にして、「じゃ、あとよろしくね」と言い残して跳ねるように部屋を出ていった。
僕はさっそくパソコンの電源を入れ、インストールしておいた編集ソフトを開く。取り込んだ音源の冒頭に「ああ、もう、恥ずかしいから聴かないで」というハルカの声が残っていた。
僕はそれから二日ほどかけて、初めてのミックス作業に取り組んだ。何十回も聴いたから音源が無くても、目を瞑ると彼女の歌声が聴こえてくる。
思い出すだけで、胸が高鳴る魔法の歌声。
この歌声を世界に教えてあげるのが、僕の役割なのだと思った。
「公開して大丈夫かな」
「うん。大丈夫だよ」
こんなやりとりを百回くらい繰り返してから、ハルカは動画の公開ボタンをクリックした。公開しちゃった、有名になったらどうしようと言いながら僕のベッドの上でバタバタしている。
僕はハルカの才能に確信があった。
けれども、どんなに彼女の歌声が素敵でも、そう簡単に世の中の人に発掘してもらえるわけではない。公開から一週間経っても再生数は三十回程度で、コメントだって無い。増えない数字を眺めて、次第に僕も彼女も、世間はこういうものかと学んでいった。
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