【ユウジ】2
近所に住んでいるから、小さい頃から友達で、たぶん幼馴染という関係だ。小学生のころ、終業式で大雨の日に彼女が抱えきれない荷物を僕が家まで持ってあげた時から仲良くなったように思う。ハルカのマンションの入り口で、彼女がうまく傘を丸められないのを僕が手伝って、それから、雨の日はいつも一緒に帰った。
僕の家に寄ってアニメを見たり、たまに夕食も一緒に食べたりして、いつの間にか、僕たちは高校生になっていた。
僕はハルカに言われたから、というよりも純粋な好奇心を原動力に、動画編集や撮影の方法を調べた。映像はスマホで十分だけれど、マイクは別に用意したほうがいいかも。安いけど評判のいいものを探してハルカにリンクを送ると、すぐに「注文した!」と返事が来た。
翌々日、アマゾンのロゴの書かれた箱を持ってハルカが僕の部屋にやってきた。
「じゃあ、そこに立ってもらえる?」
僕はハルカに壁の前に立つように言う。スタンドにスマホをセットして、彼女にレンズを向ける。ハルカは、スマホからケーブルの伸びたマイクを右手でつまむように持って、直立している。硬い表情が、初仕事のアナウンサーみたいだ。
「やっぱし、動画はやめない? とりあえず、音声だけでさ」
たしかに顔出しで動画を投稿するのは何かとリスクがある。まずは音声だけのものを作って、様子を見るのがいいかも。
「わかったよ。じゃあ、録音ボタン押すから歌い始めてね」
僕はスマホをタップして、彼女が歌い出すのを姿勢を正して待つ。しかしハルカはなかなか歌い始めず、マイクを机に置くと、ああもう!と言いながらベッドから毛布を引き剥がして僕の頭に被せてきた。
「恥ずかしいから聴かないで!」
「あ、うん、わかった。録音ボタンは押してあるから、どうぞ」
僕は彼女に怒られないように、毛布をぐるぐると頭部に巻いた。遮音性なんて皆無で、外の車の走行音が分かるくらいだけど、視界だけ真っ暗だ。
軽い咳払いのあと、大きく息を吸い込む音が聴こえた。
暗闇に、ハルカの歌声が届いた。知っている。最近流行っているアニメのエンディング曲で、こないだ一緒に聴いたあの曲。
毛布の中で、僕は身動きが取れなくなった。彼女の伸びる高音が、闇に佇む僕に絡まり離れない。舌先で刻むリズムが、暗闇に爽快な秩序を与える。ビブラートが毛布の繊維を泣かせて、僕の両耳をじりじりと加熱していく。
僕は意識して呼吸を浅くする。毛布の中の世界を、彼女の歌声だけで満たさなくてはいけないと思った。
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