Chapter #0002 Dead or Hard Dead / Segment 1 常識人の悲劇

(ピピン視点)

肉が焼ける匂い、でも、馬肉の匂いだけじゃない。

馬車の底で、それが何を意味するのか理解したときに、護衛の皆の顔を思い出した。

一番下の子は15歳だったけど、生きてるかなぁ……


姫様をお守りするはずの私がここに居て、姫様は馬車の外。

そりゃ、フィジカルは強いお方だけど、魔法はからっきしだし、どうなったのかな……


……しくしく……


しばらく泣いていたら、なんだか馬車が揺れだした。

「えっ? なッ?」


一瞬、持ち上げられたように思ったら、馬車の底の方で何かが割けるような、折れるような、ものすごい音がした。


*****


ストロベリーさんは、倒れた馬車を起こそうとした。

すると、馬車の車軸が折れた。

(うーん……矢張り、上から出す方が安全ですね……)


ストロベリーさんは、倒れた馬車をよじ登って、ドアの吹き飛んだところから、ピピンさんに声をかけた。

「お気づきになられましたね、今からそちらに行きます」


そして、三点支持で降りていって、ピピンさんに命じた。

「ここを出たいのなら、私の背中にしっかり掴まってください」


ピピンさんは迷ったが、早く言うことを聞かないと逆に迷惑であることに、五秒ほどで気づいた。

「姫様、ありがとうございます」


ピピンさんのふくよかな胸が、ストロベリーさんの背中に押し当たる。

(うーん、柔らかい、役得ですね……私はなんで14にもなってまな板なのでしょう……功夫しすぎなのでしょうか。腹筋が割れたら、功夫を少し休んで腹筋が隠れるのを待っていますけど、胸には足らないのでしょうか……)


ストロベリーさんは、ピピンさんを背負ったまま三点支持で上方にある出口を目指す。

(荒くすれば、ピピンさんは耐えられなくて落ちてしまいますし、ゆっくりすぎると力尽きて落ちてしまいますね。丁寧さと速度の両方が要求されています)


速度一定、加速度ゼロを理想と心得る。流石にそれは達成不可能だが、なんとかピピンさんを背負ったまま、天を向いている扉の吹き飛んだ左ドアを出た。

二人で馬車の『屋上』から2.5m下の地面を見おろす。


ピピンさんは涙目だ。

「うわわ! 足が滑って落ちそうです! 怖いです!」


ストロベリーさんは、優しい口調だ。

「そうなる前に、飛び降りましょう。見ていてください。幸い、地面が石のあまりない土です。足が着地した瞬間に、膝と、股の付け根、腰をクッションさせれば大丈夫です」


さっさと降りたストロベリーさんを、ピピンさんは恨めしくにらんだ。

「そんな猿みたいな真似、私には無理です……受けとめてください!!」


ストロベリーさんは頬を膨らませた。

「ピピンさん、アニメの見過ぎです。ピピンさん一人で飛び降りる方がずっと安全です。落ちる人を受け止めるとか、普通二人とも怪我をします。物理学的見当識が無いのは仕方ありませんが……。私はその訓練をしたことがないので、どういう姿勢で飛び降りてもらって、どう受け止めてどうクッションしていいか、見当がつきません。ですからそのお願いは聞けません」


そして、また優しい顔になった。

「では一度、角の所でぶら下がってください。そこから落ちるのなら1mも落差がありません」


ピピンさんは、言われたとおりにぶら下がった。でも怖くてそれだけだ。

「ひい~、姫様、ここからどうしたらいいですか」


ストロベリーさんは毅然とした声だ。

「腰や膝を真っ直ぐにして落ちると、ダメージがあると思います。腰と膝は曲げてください」


そしてストロベリーさんは、ピピンさんに近づいた。


ピピンさんは足をばたつかせた。落ちたくなくて二分ほど頑張ったが、腕が疲れてきた。そして、ボトッと落ちて悲鳴を上げた。

「ぎゃぁ~」

ストロベリーさんは、とっさにピピンさんを抱きしめて、転倒を防いだ。


ストロベリーさんは、ピピンさんに言った。

「足首、痛くありませんか?」


ピピンさんはヘナヘナと崩れ落ちた。

「うう~……捻りました。回復します」

ピピンさんは、簡単な回復魔法を使うことができる。足をトントンと鳴らして、もう無事なことを確かめた。そして、周りを見渡した。

「う……うわ! みんな……みんな死んでる? 馬も人も黒焦げ! やばい! やばいヤバイ! やばいヤバイやばい!」


ストロベリーさんは、夢見るような目になった。

「とても強い魔道士さんが、たった一人でこれをなさいました。素敵な殿方です」


ピピンさんは、慌てた。

「あわわ……姫様、人が! 人が死んでいるんですよ! なんでそんなに落ちついているんですか! っていうか、少し嬉しそうじゃないですか!」


ストロベリーさんは、首をかしげた。

戦場いくさばで人が死ななかったら逆に不思議です……ちゃんと数えましょう。私のノートをハサミで切って番号を書きますから、ピピンさんの針と糸で縫いつけてください。人は服に、馬はたてがみに」


ピピンさんは泣きだした。

「うわーん! そんなことするの嫌です。私よりも年下の子もいたのに! 悲しすぎです! わーん!」


ストロベリーさんは、穏やかな顔になった。

「泣いても誰も生き返りません。正確な報告ができるようにしましょう……仕方ありませんね、ピピンさんの針と糸を私にください。命令です」


程なく、ストロベリーさんは、感嘆の声を上げた。

「全滅ですね……私が馬車から出たときには、キウィさんは仕事を終えていたはず。なんてお仕事が早いお方なのでしょう」


騎兵と御者、全員の死亡が確定された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る