Chapter #0001 Homme Fatale / Segment 3 『舞踏会』で男女は出会う

ストロベリーさんは優しい声で言った。

「Shall We Dance?」


馬の死骸が12、人の死骸が11、焦げ臭い匂いを発している。


男はあくまで紳士的だ。

「王女、それには及びませぬ」


ストロベリーさんが顔を上げれば、慈愛に満ちた菩薩の笑みである。

「何を仰いますか、我らは既に、神の意思で踊っております。ですからShallと申しました。王女だなんて、堅苦しく呼ばなくて結構です」


男は微笑んだ。

「そうですね。『舞踏会』はもう始まっています。では何とお呼びすればよろしいですか?」


ストロベリーさんは、微笑んだ。

「Strawberry-SAN……よろしければ、こうお呼びください」


崖の上の男は肩をすくめた。

「ストロベリーさん、ここからでは失礼ですね。降ります。少しお待ちください」


そして崖の上の伏兵ポイントから、魔法で浮きつつサッと降りて、音も無く着地した後、ツカツカと歩み寄る。その間、血だまりを踏まないで済む場所を選んで着地したようだ。


彼は右手を胸に当ててお辞儀した。その右手は魔力で紫色に輝く。

「名乗るのが遅れました。女性に先に名乗らせた無礼をお許しください。キウィと申します……お目にかかることができ……実に光栄です」


ストロベリーさんは、再度スカートの両端を摘まんで持ち上げた。

「キウィさん、よろしくお願いいたします。私の護衛に舞踏の稽古を付けてくださったようでありがとうございます……皆、キウィさんには付いていけなかったようですね」


キウィさんの右手に火の玉が浮かぶ。

「では、踊りましょう」


火の玉HALITOが5m程の至近距離で打たれた。


ストロベリーさんは、等加速度運動して着弾時には時速百キロ超えの速さのそれを鉄甲で殴った。

一瞬で火の玉HALITOは砕け散り、熱伝導はほとんど無い。


キウィさんは「ほう」と感心した。

「貴女は、優しいだけの魔法も使えぬ小娘と聞かされておりましたが、私は味方にとんだ嘘を吹き込まれたようです。強い敵より、無能な味方の方が遙かに厄介」


ストロベリーさんは歓喜の笑みを浮かべた。

「いいえ、私は魔法を使えぬ小娘……それは当たっております。王族でありながら、父母が、賢者が、どれだけ手を尽くしても、未だに私は魔法が使えません……まだ14歳です、小娘で結構なのですよ」


キウィさんの手から、青白い光がほとばしる。

ストロベリーさんの周囲の物質の分子の振動が広域冷却魔法MADALTOで低減され、凍てつく。

だが、ストロベリーさんはいっこうに寒くない。


キウィさんがため息をつく。

「素晴らしい……広域冷却魔法MADALTOで霜さえつかぬか。若いときに古の魔導書で読んだ、記憶の片隅が告げたとおり。ストロベリーさん、貴女は魔力と干渉しないお方。殺すには惜しい。そう依頼人に伝えます。私が貴女と戦うのは分が悪いようだ。武術には素人の私でも、貴女の火の玉HALITOの殴り様を見れば分かる」


ストロベリーさんは、寂しそうに言った。

「キウィさん、折角素敵な殿方と踊れると思ったのに残念です」


キウィさんも寂しそうだ。

「ええ、全く。使いっ葉は寂しいものです。あなたの価値を今此所で勘定して、殺すべきか生かすべきかを決める権限がないのですから」


ストロベリーさんは夢見るような顔つきになった。

「キウィさんが独断できるとしたら、どう思われますか?」


キウィさんは、憧れるような顔をした。

「私は百年に一度の逸材と言われたが、貴女は千年に一度の逸材。殺すには惜しいが、死合うには愉しい。迷うでしょう」


キウィさんは、空中に浮いた。

「真実の私は、使いっ葉ですのでね。迷う権限もありません。今日はここまで、またお目にかかりたい」


ストロベリーさんは、スカートの両側を摘まんで頭を下げた。

「僅かな舞踏でしたが、佳い舞踏会でした。キウィさん、対戦ありがとうございました」


キウィさんは、わざわざ一度着地し直した。そして、胸に右手を当てて腰から四十五度の礼をした。

「ストロベリーさん、対戦ありがとうございました」

そして、浮遊でサッと崖の上に移動して見えなくなった。やがて馬のいななきが聞こえ、蹄の音が遠ざかっていった。


ストロベリーさんは、くうに向かって三度拳を突き出した。

「ふん! ふん! ちぇすとー!」


そして、両手を頬にあてた。顔が熱い。

(たぶん私、いま人生で一番評価されました)


胸がドキドキする。

(キウィさん……死合いでもいいし、お友達でもいいから、またお目にかかりたいな)


そして、周囲の惨状を見渡す。

(これを、たったお一人で……なんて素敵なお方なのでしょう)


脳裏にひらめきがある。

(もっ……もしキウィさんと結婚すれば、子どもは体力も魔力もある優秀な魔法使いになれるのでは? キウィさんの半分になっても充分優秀です。賢者様には、まだ子どもだからって相手にされないけど、キウィさんはちょい悪そうだから……)



そのとき、馬車の中ですすり泣きが始まったのを、鋭敏なストロベリーさんの耳が捉えた。

(あっ、楽しすぎてピピンさんのことを忘れておりました……調理道具が壊れていなかったら、馬肉のステーキでも焼いてもらいましょう)



もう一度、周囲を眺める。

(警護の死体は踏まれないように、邪魔にならないように端に移動いたしましょう……馬はどうしましょう、人より重いですものね……でもその前に、まだ生きているピピンさんに優しくしましょう)


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