第2話 パクリー・ワールドへようこそ(歓迎はしない)

 目が覚めた時、

 おにぎりマンはまだ亀甲縛りだった。


「……これ、ほどく意味ある?」

 自分で言って、自分で少し傷ついた。


 正義のヒーローが、ホテル街の裏路地で縛られて転がっている現実は、

 誰の勇気も救わない。


「起きた?」

 低くて冷たい声。


 フジキちゃーんが、壁にもたれかかりながらこちらを見下ろしていた。


 ムチは持ってないが、存在がすでにSM。


「フジキちゃーん……ここは?」

「パクリー・ワールド」

「……知ってる前提で言うやつだ」

「知らなくていい」

 即答だった。


 そこへ、紙袋をガサガサさせながらトッピングおじさんが現れる。


 中身は見なくても分かる。


 おにぎり。しかも種類が多い。


「よう、おにぎりボウズ。体調はどうだ?」

「梅干しのおかげで絶好調だよ。

 ところで、俺なんで縛られてるの?」

「走行中に暴れるから」

「暴れてない!!」

「暴れる“可能性”がある」

 フジキちゃーんが静かに付け足す。


 理屈が独裁国家。


「……で?」

 おにぎりマンは聞いた。


「バイオマンは?

 街は?

 俺の正義は?」

 トッピングおじさんは一拍置いて、言った。


「ここじゃ、正義は連載次第だ」

「不穏なこと言うな」

 トッピングおじさんは地面に腰を下ろし、


 コンビニおにぎりを一つ開けた。


「いいか。ここは“パクリー・ワールド”。

 元ネタがある者、

 既視感を背負った者、

 だいたいどこかで見たことある奴らが、

 勝手に放り込まれる世界だ」

「……誰に?」

「神に」

 空が、一瞬だけチカッと光った。


「神?」

「名前は――

 エンジョウ・サクシャ」


 その瞬間、

 おにぎりマンの背中に悪寒が走った。


「嫌な名前だな……」

「安心しろ」

 トッピングおじさんはニヤッと笑う。


「もっと嫌な奴だ」

 フジキちゃーんが続ける。


「この世界では、

 ウケれば生き残る。

 滑れば消える」

「何それ、地獄?」

「創作」

 言い切りだった。


 おにぎりマンは、少し黙ったあと、静かに言った。

「……バイオマンも?」

「ああ」

 トッピングおじさんは頷く。


「奴も、ここに縛られてる。

 お前と同じくな」

「永遠に戦え、って?」

「そう」

「……最悪だな」


 その時。


「フハハハハハハ!!」

 聞き覚えのある笑い声が、空から降ってきた。


「やっぱり来たか」

 トッピングおじさんが立ち上がる。

 ビルの屋上。

 そこに立つ、緑の影。


「おにぎりマン!!

 また会えたな!!」

「バイオマン……!」

「この世界では、逃げ場はない!!

 毎週!!

 毎回!!

 因縁バトルだぁぁ!!」


 おにぎりマンは、縛られたまま叫んだ。

「今、縛られてるんだけど!!」

「知るか!!

 それも演出だ!!」

 空が、再び光る。


 どこからともなく、声が響いた。

『さあ、始めよう』

『愛と勇気と、だいたい友達の物語を』

『燃えたら、勝ちだ』

 おにぎりマンは、天を睨んだ。


「……クソ神」

 トッピングおじさんが、

 新しいおにぎりを投げてよこす。


「愚痴ってる暇はねぇぞ、ボウズ」

「次は何入り?」

「まだ決めてない」

「決めてから投げろ!!」


 こうして――


 おにぎりマンとバイオマンの、

 終わらない連載地獄が、正式に始まった。

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