第8話 秩序の中心で


中央塔の内部は、

静かすぎるほどだった。


足音が、

白い床に吸い込まれていく。


ラグは、

フードを外した。


もう、

隠れる必要はない。


ここまで来た以上、

逃げ場はない。


壁一面に、

光の紋様が走っている。


異能制御回路。


刻印者たちの力を束ね、

都市を維持する中枢だ。


「……これが、

 文明の心臓」


吐き気がした。


人の力を、

燃料のように扱う装置。


その奥に、

一つの扉があった。


異能管理局・中枢室。


ラグは、

手を伸ばす。


触れた瞬間、

扉が自動で開いた。


中は、

円形の広間だった。


中央に立つ男。


ガルド・ゼイオン。


奪われたはずの刻印は、

簡易補助装置によって、

かろうじて機能している。


「……来たか」


その声には、

驚きがなかった。


「やはり、

 お前だった」


ラグは、

真っ直ぐに見返す。


「止めに来た」


「この文明を」


ガルドは、

小さく笑った。


「文明を、

 止める?」


「随分と、

 大きく出たな」


彼は、

腕を広げる。


「これがなければ、

 都市は崩壊する」


「刻印者は混乱し、

 無刻印者は、

 さらに苦しむ」


「それでも、

 壊すと言うのか」


ラグは、

一歩前に出た。


「今も、

 苦しんでいる」


「秩序の名の下で」


ガルドの目が、

細くなる。


「弱者は、

 管理されるべきだ」


「そうでなければ、

 文明は成り立たない」


「それが、

 現実だ」


重力が、

再び場を満たす。


床が、

軋む。


ラグは、

踏みとどまった。


胸の刻印が、

共鳴する。


重力。

制御。

理解。


「……同じ力だ」


ラグは、

呟いた。


「だが、

 使い方が違う」


二人が、

同時に動いた。


ガルドは、

重力を圧縮し、

刃のように放つ。


ラグは、

それを逸らす。


空間が、

歪む。


壁が、

砕ける。


「なぜ、

 そんな力を持って、

 反抗する!」


ガルドの声が、

怒りを帯びる。


「お前が、

 管理する側に立てば、

 世界は安定する!」


ラグは、

歯を食いしばる。


「……なりたくない」


「奪う側には」


一瞬の隙。


ラグは、

踏み込んだ。


ガルドの胸に、

手を伸ばす。


「やめろ!」


叫びは、

間に合わなかった。


刻印が、

完全に崩れる。


灰となり、

空に散る。


ガルドは、

崩れ落ちた。


重力が、

完全に消える。


静寂。


ラグの胸に、

重い感覚が増した。


また一つ、

背負った。


「……これで、

 満足か」


ガルドは、

床に伏したまま言う。


「いや」


ラグは、

首を振った。


「ここからだ」


彼は、

制御装置に向き直る。


刻印を束ねる、

文明の核。


「壊す」


スイッチに、

手をかける。


その瞬間、

警報が鳴り響いた。


都市全体が、

揺れる。


ラグは、

深く息を吸う。


これは、

戦いの終わりではない。


世界を、

生まれ変わらせるための、

始まりだ。


彼は、

装置を停止させた。


光が、

消える。


中央都市から、

刻印の輝きが失われていく。


文明は、

止まった。


だが――


人は、

まだ立っている。


ラグは、

ゆっくりと歩き出す。


自分が、

選んだ未来へ。

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