第7話 中央都市への道
灰の街が、
静まり返っていた。
反撃の余韻は、
まだ空気に残っている。
瓦礫の間に立つ人々の顔には、
恐怖と、
かすかな昂揚が混じっていた。
ラグは、
自分の胸に手を当てる。
重い。
重力制御の刻印が、
確かにそこにある。
奪った。
初めて、
明確な意思で。
「……後悔は?」
トウマが、
恐る恐る尋ねた。
ラグは、
首を横に振る。
「守るためだった」
それ以上、
言葉はなかった。
街の外れで、
簡易の集会が開かれる。
無刻印者たちが、
円を作った。
誰もが、
ラグを見る。
期待。
不安。
依存。
それらが、
一斉に向けられる。
ラグは、
一歩前に出た。
「俺は、
ここに留まらない」
ざわめき。
「中央都市へ行く」
ルミナス・コア。
刻印文明の中枢。
「向こうが、
動き出す前に、
終わらせる」
「俺一人で行く」
誰かが、
声を上げた。
「死にに行くのか!」
ラグは、
静かに答える。
「行かなければ、
もっと死ぬ」
沈黙。
それが、
答えだった。
夜。
街を出る前、
ラグは振り返った。
灰の居住区。
生まれ、
生き延び、
戦った場所。
「……戻る」
小さく、
呟く。
一人で。
中央都市への道は、
監視されている。
刻印者専用の通路。
だが、
今のラグには、
視界があった。
重力。
流れ。
警備の配置。
「見える……」
能力が、
役に立つ。
それが、
少し怖かった。
門の前。
巨大な結界が、
光を放っている。
刻印認証。
刻印者しか、
通れない。
ラグは、
深呼吸した。
胸の刻印を、
意識する。
重力を、
操作する。
自分の体重を、
限界まで軽くする。
次の瞬間、
跳んだ。
結界の上を、
越える。
警報は、
鳴らなかった。
ルミナス・コア内部。
白い石畳。
整った建物。
澄んだ空気。
灰が、
一粒もない。
「……同じ世界か?」
思わず、
呟く。
人々は、
忙しなく歩く。
刻印を、
誇るように晒して。
ラグは、
フードを深く被った。
目立つわけには、
いかない。
中央塔が、
視界に入る。
異能管理局。
文明の心臓部。
そこへ、
向かう途中。
「……まさか」
聞き覚えのある声。
ラグは、
足を止めた。
振り返る。
イーラが、
そこにいた。
刻印のない額。
それでも、
まっすぐな目。
「やっぱり、
来たんだね」
ラグは、
言葉を失う。
「どうして……」
「あなたが、
行くと思ったから」
それだけだった。
「危険だ」
「知ってる」
即答。
イーラは、
一歩近づく。
「でも、
ここは私の世界でもある」
「見過ごせない」
ラグは、
拳を握った。
守りたい。
だが、
守れない。
「一緒には、
行けない」
イーラは、
微笑んだ。
「それでいい」
「私には、
別の役目がある」
彼女は、
通信端末を見せる。
「内部の人脈。
情報。
全部、
流す」
「あなたが、
進みやすいように」
ラグは、
何も言えなかった。
言えば、
止めてしまう。
それが、
わかっていた。
「……生きて」
ラグは、
それだけ言った。
イーラは、
力強く頷く。
二人は、
背中を向けて別れた。
中央都市の光の中で。
ラグは、
中央塔を見上げる。
ここが、
終点だ。
文明の核に、
手を伸ばす。
名もなき存在だった少年は、
ついに、
世界の中心に立った。
次に揺れるのは、
灰の街ではない。
文明そのものだ。
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