第6話 灰の反撃
朝は、
音もなく始まった。
灰の街に、
太陽は似合わない。
薄曇りの空の下、
人々は静かに動く。
ラグは、
瓦礫の高台から街を見下ろしていた。
アッシュレイン。
無刻印者たちの街。
誰もが、
俯いて歩く。
声を出せば、
目をつけられる。
それが、
長年の生き方だった。
「……変えるなら、
今しかない」
ラグの背後で、
声がした。
若い男。
名は、
トウマ。
無刻印者の一人だ。
「管理官が、
また人を連れていった」
「理由も、
説明もない」
ラグは、
拳を握った。
それが、
日常だった。
「集めてくれ」
「え?」
「話がある」
トウマは、
目を見開いた。
だが、
すぐに頷く。
昼過ぎ。
街の中心。
かつて広場だった場所に、
人が集まり始めた。
老人。
子ども。
疲れ切った大人。
誰もが、
不安そうだ。
ラグは、
一段高い瓦礫に立つ。
視線が、
集まる。
無刻印者が、
前に立つなど、
滅多にない。
「俺は、
ラグ・フェインだ」
ざわめきが、
広がる。
名を名乗った。
それだけで、
空気が変わる。
「俺は、
逃げてきた」
「管理官に、
追われている」
ざわめきが、
怒りに変わる。
「でも、
もう逃げない」
「俺たちは、
何もしていない」
「それでも、
奪われ続けている」
声が、
震えた。
だが、
止まらなかった。
「俺には、
力がある」
その言葉に、
息を呑む音。
「刻印を、
奪う力だ」
沈黙。
信じられない。
だが、
嘘だとも言えない。
ラグは、
胸の刻印を見せた。
初めて、
街の人々に晒す。
「この力は、
危険だ」
「だから、
俺一人で使う」
「だが――」
視線を、
一人一人に向ける。
「俺は、
代わりに立つ」
「殴られるなら、
俺が殴られる」
「殺されるなら、
俺が殺される」
誰かが、
嗚咽を漏らした。
「……もう、
やめてくれ」
年老いた女が、
呟く。
「失うのは、
もう嫌だ」
ラグは、
ゆっくり頷いた。
「だから、
終わらせる」
そのとき。
街の入口が、
騒がしくなった。
管理官だ。
刻印者たちが、
列をなして入ってくる。
中央に、
ガルド・ゼイオン。
重力が、
街を押し潰す。
人々が、
膝をつく。
ラグは、
一歩前に出た。
「下がって!」
声を張り上げる。
無刻印者たちを、
背に庇う。
ガルドが、
冷たい目で見る。
「やはり、
ここにいたか」
「無刻印者が、
指導者気取りとは」
嘲笑。
ラグは、
歯を食いしばる。
「俺は、
誰の上にも立たない」
「ただ、
奪われないだけだ」
ガルドの刻印が、
強く光る。
重力が、
さらに増す。
瓦礫が、
砕ける。
人々の悲鳴。
その瞬間。
ラグの胸が、
灼ける。
視界が、
重なった。
重力の核。
そこに、
手を伸ばせば――
「やめろ!」
誰かが、
叫んだ。
ラグは、
一瞬、
迷った。
だが、
倒れ込む人々を見た。
母の顔が、
浮かんだ。
「……奪う」
決意は、
短かった。
一歩踏み出し、
ガルドに触れる。
次の瞬間。
重力が、
消えた。
街が、
静まり返る。
ガルドが、
膝をつく。
刻印が、
灰となって崩れた。
ラグの胸に、
新たな重みが宿る。
ざわめき。
恐怖。
希望。
すべてが、
混じり合う。
ラグは、
振り返った。
無刻印者たちが、
立ち上がっている。
初めて、
背筋を伸ばして。
灰の街で、
反撃が始まった。
それは、
小さな一歩だ。
だが、
文明を揺らすには、
十分だった。
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