第2話 禁忌の覚醒
意識が戻ったとき、
ラグは冷たい床の感触を知った。
石。
湿り気を帯びた石畳。
遺跡の奥だ。
「……生きてる?」
かすれた声が、
頭上から落ちてくる。
イーラだった。
彼女は膝をつき、
ラグの顔を覗き込んでいる。
額の刻印は、
いつものように淡く光っていた。
いや――
正確には、
光っていない。
ラグは、
違和感に気づいた。
「イーラ……
その刻印……」
声が、
思うように出ない。
イーラは首をかしげ、
自分の額に触れる。
次の瞬間、
表情が凍りついた。
「……ない?」
彼女の指先が、
何度も額をなぞる。
そこにあるはずの紋様は、
影も形もなかった。
「どういうこと……」
イーラの声が震える。
刻印は、
消えない。
それが、
この世界の常識だった。
ラグは、
自分の胸に熱を感じた。
嫌な予感がして、
服を引きはがす。
そこには――
見覚えのない紋様が、
はっきりと刻まれていた。
イーラの刻印。
形も、
位置も、
まったく同じ。
「……俺が……
奪った?」
言葉にした瞬間、
胸の奥がざわめく。
理解が、
追いつかない。
刻印は、
生まれつきのもの。
他人に渡るなど、
ありえない。
それなのに――
「ラグ……
あなた、
今……
私の視界が見えた?」
イーラが、
恐る恐る尋ねる。
ラグは、
目を閉じる。
集中すると、
さっきの感覚が蘇る。
空間の広がり。
壁の向こう。
天井の亀裂。
見える。
はっきりと。
「……見える」
イーラの能力。
視界拡張。
それが、
自分の中にある。
沈黙が落ちた。
遺跡の奥で、
二人の呼吸だけが響く。
「それ、
知られたら……」
イーラが言葉を濁す。
ラグも、
同じことを考えていた。
刻印を奪う異能。
そんなものが存在すると知られたら、
即座に処分される。
異能管理官。
中央都市。
処刑。
言葉が、
頭をよぎる。
「……外に出よう」
イーラは立ち上がり、
ラグに手を差し出した。
「今は、
考える時間が必要」
ラグは、
その手を取る。
刻印者の手。
初めて、
対等に触れた気がした。
遺跡を出た瞬間、
灰の空気が肺に入る。
そのときだった。
背後から、
重い音が響いた。
「動くな」
低く、
よく通る声。
振り向くと、
黒い外套の男が立っていた。
ガルド・ゼイオン。
異能管理官。
腕の刻印が、
重力制御の証として輝く。
「遺跡内で、
異常反応が検知された」
視線が、
ラグの胸に向けられる。
「説明してもらおう」
空気が、
圧し潰される。
足元の石が、
きしむ。
重力が、
増している。
ラグは、
歯を食いしばる。
そのとき。
胸の刻印が、
熱を放った。
視界が、
再び広がる。
ガルドの背後。
重力の流れ。
能力の核。
理解してしまった。
刻印は、
喰える。
本能が、
そう告げていた。
だが――
ラグは、
動かなかった。
奪えば、
もう戻れない。
灰の街の少年は、
初めて選択を迫られる。
力を使うか。
人でいるか。
ガルドの視線が鋭くなる。
「無刻印者。
答えろ」
ラグは、
顔を上げた。
胸の奥で、
何かが静かに燃えていた。
灰の文明は、
まだ知らない。
自分たちの秩序を壊す存在が、
すでに生まれていることを。
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