全肯定書評

小狸

掌編

「君の書評ってさ、全肯定しかないよね。つまらないよ」


「別にあんたのために文章書いているわけじゃないし――っていうか書評っていうほど私の文は整然としてはいないよ。感想だよ、感想」


「感想、ねえ。僕はどうかと思うよ。時代は疑うこと、だよ。それが本当に本質か、見て、見極める必要がある」


「そういうのは、そういうことができる奴同士でやっていれば良いじゃん。人の感想にまで突っかかってきて、こうあるべき理論を展開するの、めてもらえる?」


「いやいや、時代性がそうなんだって。この情報社会、次から次へと情報が溢れてきて、どれが正しい情報なのかが、もはや分からなくなっている。だからこそ、目の前に流れてきた情報にも、まず疑いの眼を向けなければならないんだよ」


「疑い、か。そうやって何にでもさい心を働かせて、疲れないの?」


「そりゃ疲れるよ。でも、得られるものはあると思っている。何せこんな世の中だからね。嘘を吐いて相手を陥れようとする者だってたくさんいる。だからこそ、疑うことが重要なんだ。疑って、疑って、疑って――その網を潜り抜けた正しい情報のみを摂取していけば、きっと人は正しくなれるんじゃないかって思うんだよね」


「ふうん、そ」


 興味なさそうに、友人は言った。


 僕としては、決め台詞ゼリフを行ったつもりだったのだったが。


「じゃあ、私は、疑いの眼で持って、小説を読み、その感想を陳列するべきなんだ? あんたの言う全肯定ではなく、批判や批評も入れなきゃ、正しくはなれないんだ?」


「そうだよ。物語を批判的な見方で捉えるという認識が、昨今は薄れているように感じるんだよね。あの作者だから全肯定。あの人が作った作品だから全肯定。全部が全部面白いとしか言わない自動機械。そんなの、物語を捉えているとは言わないだろう」


「へえ。まあ、あんたの言いたいことも分からなくはないし、きっとそれが世間的に言うところの正しい物語の見方なのかもしれないけれどさ――まず大前提として、


「…………」


「それにね、私の感想が全肯定になっているっていうのはその通りだけれど、何も世にある全ての作品を肯定的に捉えているってわけでもない。これは知らないと思うから今言うんだけれど、私が感想としてネットにアップしているのは、私が読書している小説の中のごく一部なんだよ。私にも合わない本は確かにあって、それには合わないと思って、。面白いと思ったものだけを、面白いって言っている。それだけのことなんだよ。だから、全肯定になるのは当然なの」


「そ、そんなの、感想がかたよるじゃないか。何事も平等に読んで、平等に感想を述べていかなきゃ――そうしなきゃ……」


「――あんたさ、?」


「っ…………!」


 その言葉は。

 

 僕に突き刺さった。


「それにさ、面白くないって感想を投稿して、もし作者さんがそれを目にしたらって考えると、私は怖くてできないよ。誰が見るか分からない――だったら作者さんが見たって不思議ではないでしょ? それにマイナスな感想を、まあ自発的に見ようとする人はいるかもしれないけど、積極的に見たいと思う人って、少ないんじゃない? そりゃ、『この本つまんなかった、面白くなかった』って思うのは簡単だし、悪いことじゃないけどさ。それを公衆の面前で言うってことは、逆に考えれば、『自分にはこの本の魅力を理解するだけの読解力がありませんでしたー』って公言していることにもなるじゃん。私一般人だよ? やだよそんな恥ずかしい真似」


「…………」


「私は私のために、私の機嫌のためと、私の思い出に残しておきたい、そして何より、小説の感想を通して、面白かった物語の魅力を知ってほしい。そんな思いで、感想を書いているんだよ。世間とか世の中とか、ややこしいことを考えてないの。色んな本があるんだから、色んな読み方があって良いでしょ。そんなに言うなら、あんたがその『書評』とやら、やれば良いじゃん。アカウント自分で作って、言いたいこと言えば良いじゃん。んで、まだ何か、言いたいことある?」


「……いや、ないよ」


 僕はそのまま、読んでいる本に目を落とした。


 改めて考える。


 果たして僕は、この小説を。


 面白い、と言えるだろうか。


 令和8年の1月7日、さる私立高校の静かな朝に早く登校した、2人の同級生の会話である。




(「全肯定書評」――了)

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