第5話 押し潰せ、すべての魔物を駆逐しろ。

 手抜きの朝食は作りたくない。


 冷凍庫に保存されている凍ったブロッコリーと野菜室にあったスナップエンドウを小鍋で塩茹でしながら、ウインナーソーセージに切れ目を入れる。先に茹で上がったスナップエンドウをお箸で素早く取り出して、水気を切った後で筋取りしておく。その頃には、小鍋の中の冷凍ブロッコリーも茹で上がっているので、お皿の上に置いて粗熱あらねつを取っておく。


 食パンを透明無地のポリ袋から一枚取り出して、冷蔵庫から取り出したトマトソースを薄く延ばしながら丁寧に塗り、まな板の上にのせる。その後は薄切りされた玉ねぎと輪切りにされているピーマンを飛び出ないようにのせて、食パンの四隅よすみと中央にサラミを五枚ほどのせ、最後にモッツァレッラチーズをかける。


 これでオーブントースターに七分ほど入れたら、具だくさんのピザトーストの出来上がりだ。


 あっ……、フライパンでウインナーソーセージを焼くのを忘れていた。


「私は見えていない。私は見えてない。キッチンの窓をコンコンとくちばしで叩いている鳥型のゴーレムの姿なんか見えていない」


 嫌な予感がする。


 このハトに似せた羽毛付きのウッド・ゴーレムは、所属しているだけの冒険者ギルドの支部に置き物として放置してきた伝令用のゴーレムだったはずだ。


「良い焼き具合ですね。さて、そろそろ朝食を食べることにしますか」


 ◇◇◇

 

「リスナーの皆さん、こんにちは。クソみたいな異世界の厳しさに絶望して、すでに呂律が回っていない新戸リータです」


:すでに飲んでるwww

:何があったw

:やさぐれてて草

:醜態を晒さないという、ルールはどうしたww


「配信が始める前に、ウイスキーをグラスで四杯ほど飲んだだけです」


:おいw

:マジかよwww

:大丈夫?

:泥酔寸前w

:無理してないで寝ろよw


「熱烈な私のファンの方から、ラブレターを貰ってしまいました。ここで読み上げてもいいですか?」


:あ、うん

:それ、絶対にラブレターじゃないよな

:絶望するほどのラブレターってなんだよw


「破軍の魔女、マルガリータ・アラストール様へ」


:ぶっww

:破軍の魔女ってw

:痛い二つ名キタァーwww

:本人が一番ダメージ食らってんだから、イジメてやるなよw


「アスグレイブ地方の都市クレアード周辺で、魔物の氾濫のきざしあり」


:ちょw

:ラブレターじゃなくて草

:冒険者ギルドからの強制依頼www


「至急、救援を乞う。以上です」


 おかしいですね。


 身分証明のために吐き気を我慢しながら登録した冒険者ギルドに、なんで私は救援要請を求められているのでしょうか。城郭都市内のあまりの臭さに嫌気が差して、いくらでも創造できるゴーレムと共に、わざわざ人気のない城外の廃城跡地まで逃げてきたというのに。


 本当に不思議ですね。


 当面の安全を確保するために、廃城跡地の周辺にいる強い魔物を根絶やしにしたのが失敗だったみたいですね。弱い魔物もよく撃ち漏らされていたので、運動不足になりがちな足腰を弱らせないために、散歩がてら毒入り肉団子をいていたので、それで冒険者ギルドの調査員に存在を把握されてしまったのでしょうか。


 謎が深まるばかりです。


「リスナーの皆さん。これから魔物殲滅RTA、はじまるよー」


:ちょっと、待てえええええwww

:え、今から?

:棒読みで草

:これ、3D配信だよな?

:リータちゃん、戦えないんじゃなかった?


「私は魔力と精神力と並列思考しか成長できない、非戦闘員ですよ」


:あれ?

:え?

:だったら、戦えないんじゃww


「創造魔法で同時展開可能なアイアン・ゴーレムの総数は6011体」


:はっ?

:6011体も?

:嘘だろ?

:何がおこってるの?


「私は勇者パーティーのような英雄にはなれない。だけど、物量で押し潰すことはできる」


 私が住んでいる場所は、アスグレイブ地方のアウレア。

 魔物の氾濫が起きようとしている城郭都市クレアードは、15キロ先にある隣町だ。

 

 左目の視覚情報を、クレアード近郊を飛行している鷹型のウッド・ゴーレムと同調させる。


「戦端は、まだ開かれていない。けれど、ゴブリンを中心とした魔物の集団は、城郭都市のクレアードを包囲するように展開している。住人の避難は間に合わないか」


 転移が完了するまでのライムラグは2秒前後。即時に介入することができる。


「リスナーの皆さん、これからの配信は20秒ほどの遅延が生まれてしまいます。モザイクの処理とかを色々しなければならないので」


:あ、はい

:リータちゃんの雰囲気が違う

:これ、同一人物?

:わからない


「転移先の構造物の有無を確認、周囲に視認できる敵影なし。転移開始」


 臭かった。えた糞尿の臭いや飲食物が腐った臭いがここまで漂ってくる。

 クレアードの城壁まで200メートルはあるというのに。だから、異世界は嫌いなんだ。


「多重障壁を展開」


 まずは安全の確保。そして、身バレ防止の創造した白い仮面を被る。


 左目の視覚情報は上空を飛んでいる鷹型ウッド・ゴーレムに固定。配信と同調させる。

 いや、一体だけでは数が足りないかもしれない。鷹型ウッド・ゴーレムの数を増やす。


 右目の視覚情報をコメント欄に固定。これで私は、一歩も動けなくてなった。


「聖杖の構築を開始。終了まで、残り37秒」


 嫌だな。本当に嫌だな。私は働きたくないのだ。


「終了まで、残り21秒」


 でも、勇者パーティーの人たちが生きていたら、きっと助けに来たんだろうな。


「聖杖の構築が終了しました。これから、詠唱を開始します」

 

 飲み会を楽しみにしている勇者パーティーの人たちに、先に謝っておこう。

 魔物の殲滅が終わったら、飲みかけのウイスキーを一滴も残さず飲み切ってやるって。


「勇気ある善良な者たちを導き、その英雄譚を語り継げ。それが愚かな死を選んだ汝の贖罪の証しとならん。愚かだった我は語ろう。この世には、素晴らしい英雄たちの物語があったことを。この世界にいる誰もがうらやみ、憧憬を抱く、勇壮なる奇跡のような物語が確かにあったことを」


 神様……いい加減、次の勇者パーティーを召喚してくれよ。私だけじゃ、荷が重すぎる。


 重装歩兵型のハルバードと大楯を持った、アイアン・ゴーレムが3600体。

 軽装弓兵型のロングボウと矢筒を持った、アイアン・ゴーレムが1200体。 

 同数の馬型ゴーレムにまたがっている、重装騎兵型のアイアン・ゴーレムが600体。


 これが私の限界。


 私は両手に持っていた聖杖を掲げて、戦列を組んでいるアイアン・ゴーレムたちに命じる。




「押し潰せ、すべての魔物を駆逐しろ」


 

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ダウナー系TS隠者の異世界配信。 さば @saba-no-misoazi

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