第2話 信じられない馬鹿ばっかりだった。

:隠者w

:引きこもりの間違いだろww

:仕事しろ、クソニートw

:働く気ゼロで草


「隠者は、俗世間との交わりを絶ち、修行あるいは自適な生活を送っている人のこと」


 死んだ私たちが無理やり召喚させられた異世界は、無料の小説投稿サイトに載せられている書き手の作者にとって都合が良い、中途半端に発展した中世ヨーロッパ風の世界ではなく、信じられない風説や有り得ない迷信がまかり通る暗黒時代の中世ヨーロッパに酷似した世界だった。


 むしろ、治安という意味では、中世ヨーロッパのほうが良かったかもしれない。


 身ぐるみを剥ぐ目的で、人気のない路地裏で誰かが殺されても、この世界の住人は鼻をもぐような死臭がしない限り誰も気に留めない。人々は生き死にが多すぎる過酷な日常を生きることに精いっぱいで、他者を思いやる余裕さえないのだ。斬り殺された血塗れの死体から容赦なく持ち物を強奪する犯人が、町の治安を守る衛兵だったこともある。

 

「私にぴったりなジョブでしょう?」


:新戸って名前、ニートに引っかけてない?

:あ、ホントだw


「私の名前は隠者を辞めて、働かなくて済む『ニート』に戻『りた』いから名付けました」


 人間の善性を信じていた召喚者の人たちは過酷すぎる現実に打ちのめされて、磨り潰された。

 困った人がいたら手を差し伸べるような優しい人から、次々と殺されていった。


 だから、クズで救いようのない私は生き残ることができた。


 誰も信じない、誰も助けない、誰にも頼らない、誰にも弱音を吐かない、最悪の状況を常に想定して行動していた臆病で卑怯者の私だけが生き残った。そもそも私が性転換した理由は、神様に頼まれていた魔王討伐が失敗した時、食うには困らない娼婦になるためだ。運良く自活できる隠者のジョブを獲得できたから、娼館のベットの上で裸になって股を開かず済んだだけ。

 

:ファンタジーの世界に転移したんなら、冒険しろよ

:そうそう、なんで引きこもってんの?

:派手な魔法とか見てみたい

:そういう設定なだけなんだから、いじめてやるなよw


「冒険をしたくても、できないが正解ですね。私の使える魔法は、勇者パーティーの先回りをするための限定的な転移魔法と自分の姿を消すことができる隠匿魔法。それと魔物の攻撃から身を守る障壁魔法、魔族特効の聖剣や聖槍を作り出せる非殺傷の創造魔法だけなんです。使い勝手のいい攻撃魔法や回復魔法の類は、隠者のジョブの範囲外で一切使えません」


:マジの裏方で草

:サポートキャラなのに、サポートするはずの勇者パーティーが全員死亡していないとかw

:これ、勇者パーティーと遭遇したこと自体、想定外だったんじゃね?


「その通りです。魔物がいる森の中にまとめて召喚させて、いきなり地面に叩きつけられた直後は何も分からない混乱状態でしたね。急いで姿を消すのが精いっぱいでした」


:先回りできてないwww

:最初からグダグダで草

:神様は何やってんだwww

:盛大にミスってるww

:勇者パーティーの中に、混乱中のストーカーが紛れ込んでて草生えるw


「貫頭衣を着ている裸足の勇者パーティーの人たちに、装備が入った宝箱をさり気なく発見させるのは苦労しました」


 その傷一つない真新しい装備が豪華すぎて、勇者パーティーの死因になった。


 人気のない寂れた街道で多数の傭兵に護衛されている武装隊商の馬車をヒッチハイクしようとするなんて、私の想定の埒外だったのだ。最悪な状況を常に想定している私と同じ程度の危機意識は持っていると思っていた。だが、諸外国に比べて治安が良い日本社会という生活に慣れすぎていた転移者たちは、私の想像以上に鈍く察しも悪かった。


 結果は、馬に騎乗している護衛の傭兵が放った弓矢で左目を射抜かれた勇者、勇者を射抜いた傭兵に反撃しようとした槍使い、負傷した槍使いを何とか救助しようとした杖持ちの僧侶が即座に死亡。その後で行われた容赦のない残敵掃討戦で、勇者パーティーのほとんどが死傷した。


 信じられない馬鹿ばっかりだった。


 アメリカの大統領専用車両を警護中の車列の前に、武装した状態のままで進行を邪魔するように飛び出したら、護衛のシークレットサービスに撃ち殺されても文句は言えない。


 なんでそんなことも分からない?


 騎馬から降りた傭兵たちに、後続している車列の通行の邪魔にならないように勢い良く放り捨てられて、街道の横にある草むらの中で藻掻もがき苦しんでいる勇者パーティーの生き残りに、介錯のつもりでトドメを刺したのは私だ。


 最悪な気分だった。

 足がすくんで誰も助けられなかった私は、泣きながら短剣で一人残さず殺していった。


:せっかくの苦労が水の泡になってて草

:路上強盗に勘違いされる勇者って、なんだよww

:リータちゃん、どんまいw

:それじゃ、やる気も失うかwww


「それに私が引きこもって冒険しない理由は、他にもちゃんとあるんですよ」


:理由あったんだwww

:どんな理由があるんだ?

:なになに?w

:リータちゃんがダウナーすぎて、草生えるわwww


「この世界の住人と積極的な交流をしたくないんです。鼻が曲がるくらい、臭いので」


:臭いってなんだよww

:終わってんな、異世界www

:異世界の住人は風呂に入らないの?

:こいつ異世界に行かせたら駄目な奴だw


「こちらの世界では、お風呂に入ると汚れたお湯が身体中の毛穴から体内に入って、重たい病気になるらしいですよ。動物の糞尿や細菌が混ざっている汚染された井戸水よりも、煮沸消毒された綺麗な水で作られているエールほうが好まれて飲まれるくらい、不衛生な環境なんです」


:迷信で草

:それを信じる馬鹿がいるのかwww 

:冗談だろww

:よくある中世ヨーロッパ風の異世界じゃないwww


「私は村の門番にどこから来たのか詰問された時、それまであった異世界の幻想をすべて捨て去りました」


:門番の体臭で村に入ることを諦めかけてるwww

:第一村人の発見を喜んでいる余裕もなくて草

:それは辛いwww


「あっ、喉が渇いたので用意しておいたラム酒を飲みます。そういえば、煙草を吸いたいと言っていたのに、まだ吸っていなかったですね」

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