第10話

私は震える声で答える。



「そんな……ことないよ。」



でも、それは自分でもわかってる。


“完全な本心じゃない”って。



彼は首を横に振った。



「違うねん。

嘘とかやなくて、

俺がおかしいだけかもしれんけど……

会ってるはずやのに、

どっか壁ある気がしてまうんよ。」



その“壁”は、


きっと私が作ったものだった。


罪悪感と秘密で固めた、


触れられたら壊れてしまう薄い壁。


だからこそ、反論できなかった。


喉が詰まって、

やっと絞り出した言葉は小さかった。


「……ごめん。

私も、どうしていいか分からなくなってる。」


彼は驚いたように目を見開いた。


怒りでも、失望でもない、


ただ純粋に心配そうな目。



「……そんなに悩んでたん?

俺、全然気づけへんかった。」



その優しさが、

逆に胸を締めつけた。


言えない秘密があること。


彼氏と一緒に暮らしてること。


二人の間にできてる距離は、


“彼のせいじゃない”こと。



全部言えなくて、

でも嘘もつけなくて、

ただ涙がにじみそうになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る