第6話

その声は、酔ってない、まっすぐな声だった。


静かな店の空気の中で、


その言葉だけが重く落ちた。


胸がぎゅっと締め付けられた。


逃げたくなるほど痛かった。


私は返事ができなかった。

だって、


私が一番聞きたくなかった言葉だったから。


彼氏とお客さんの間で揺れ続け、


どちらかに寄りかかっては、


どちらかを傷つける。


その真ん中に立っているのが、


誰でもない“私自身”だと、


ようやく思い知らされた。


「なぁ……俺ってほんまに彼氏なん?」


その言葉が落ちてから、

数秒だけ世界が止まった。


心臓が変な音を立てて、


喉がひりつくみたいに乾いた。


焦りのほうが先にこみ上げてきて、


私は反射みたいに言っていた。



「……彼氏だよ?

なんで、そんなこと言うの?」

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