第15話 祝勝会


 会場の査定カウンター前。


 俺たちは、試験官から渡された封筒の中身を見て、ゴクリと唾を飲んだ。



「……え、マジで? これ計算合ってますか?」


「はい。ミノタウロスの魔石に加え、希少な角が高品質でしたから」



 提示された金額は、合計で80万円。

 4人で山分けしても、1人あたり20万円だ。

 たった数時間の労働、しかも試験のついでに稼いだ額としては破格すぎる。



「す、すげぇ……! 日当の10倍ぐらいじゃねえか……!」

 タカシが封筒を持つ手を震わせている。


「が、学費の足しになります……!」

 サエさんも涙目だ。


「フッ……我にとっては端金(はしたがね)に過ぎんが、まあ今日のところは受け取っておいてやろう」

 カズマは腕組みをしてスカしているが、口角がニヤニヤと上がりっぱなしだ。素直じゃない。


 俺も懐に現金をしまい込んだ。

 20万。これで新しい装備を買うもよし、親にプレゼントもよし。


 探索者ドリームの片鱗を味わった気分だ。



「よし! これだけありゃ豪遊できるだろ! メシ行こうぜメシ! 肉だ!」



 タカシの号令に、誰も異論はなかった。


 ***


 会場近くの焼肉チェーン店。

 網の上では、上カルビやハラミがジュウジュウと音を立てて焼かれている。



「試験合格に、かんぱーい!」


「「かんぱい!」」


 ジョッキ(俺とサエさんはウーロン茶、タカシはビール、カズマはコークハイ)がぶつかり合う。

 死線をくぐり抜けた後の焼肉は、最高に美味かった。

 一通り肉を平らげ、腹が満たされた頃。


 カズマがグラスを「ダンッ」とテーブルに置き、重々しく口を開いた。


「さて……諸君。これからの話をしようか」

 場の空気が少し変わる。



「我ら『マッドゴーレム』は、今日伝説の一歩を踏み出した。この4人が揃えば、Aランク、いやSランクダンジョンの攻略も夢ではない。世界をその手に掴む時が来たのだ!」



 カズマの瞳は本気だ。

 彼は当然のように、このパーティーが「継続」するものだと思っている。


 だが――。

「あー、カズマ。悪いけど、俺はパスだわ」

 タカシがサンチュを齧りながら、あっさりと手を挙げた。



「なっ!? 貴様、栄光への道を拒むというのか!?」


「いや、俺仕事あるし。電気工事士なめんなよ? 平日は忙しいねん」

 タカシは申し訳なさそうに、でもきっぱりと言った。


「それに俺、住みは岸和田やぞ? ここまで来るのに時間かかるし、地元の連中とも『免許取ったら一緒に潜ろうや』って約束してるからな。基本はそっちがメインになるわ」


「ぐっ……じ、地元愛か……」


 カズマがたじろぐ。

 地元のツレを大事にする。いかにもマイルドヤンキーなタカシらしい理由だ。


「私も……ごめんなさい」

 続いてサエさんが手を挙げる。


「看護学校の実習が始まるんです。これからは土日もレポートや病院実習で埋まっちゃうので、探索は長期休みくらいしか……」


「な、なんと……学業という名の足枷か……!」



 カズマがガクリと項垂れる。

 そして、最後にお鉢が回ってきた。


「レン、貴様なら……!」


「ぼくは西宮ですね」

 俺は冷たいウーロン茶を飲みながら答えた。


「学校もありますし、ここら辺までは遠いです。それにカズマの家、ほぼ和歌山じゃないですか。流石に集まるのはしんどいですし、まずは地元で自分のペースでやりたいですね」

 これは本音だ。


 カズマと組めばメリットはあるが、毎回集まる手間や、人間関係のしがらみは面倒くさい。


「き、貴様ら……! 揃いも揃って現実的すぎるぞ……!」



 カズマがテーブルに突っ伏した。

 世界征服の野望は、**「通勤距離」と「本業の忙しさ」**というリアルな壁の前に敗れ去ったのだ。


「ま、しゃーないって。住んでる場所も生活もバラバラなんやし」


 タカシがカズマの背中をバンバン叩く。


「でもよ、今日楽しかったのはマジだぜ。せっかくだから『D-Link』交換しとこうや。なんかデカイ祭りとか緊急募集があったら、また声かけてくれよ」


 その提案には、全員が頷いた。

 スマホを取り出し、QRコードを読み込む。


『タカシ、サエ、カズマとフレンドになりました』


「グループ作っとくぞー。名前は……っと」


 カズマが奪い取るようにスマホを操作し、グループ名を入力した。

 グループ名:【選ばれし4人の・マッドゴーレム・オブ・レジェンド(仮)】


「……なげぇよ」


「(仮)って何ですか、(仮)って」


 俺たちが突っ込むと、カズマは「フン」と鼻を鳴らした。

 こうして、俺たちの即席パーティーは、焼肉の煙と共に解散することとなった。


 ***


 店を出て、駅での別れ際。


「じゃあなみんな! また会おうぜ!」


「お疲れ様でした! 気をつけて!」


「フッ……深淵が再び交わる時まで、さらばだ」



 それぞれが別々の方向(大阪市内、兵庫、南大阪・阪和方面)へ散っていく。

 俺は電車に揺られながら、スマホを見た。

 グループチャットには、すでにカズマが『今日の我の勇姿』という自撮り画像を連投している。

(……うるせえな)

 俺は迷わず**【通知をオフ】**に設定した。

 静寂が戻る。

 

「……すげぇ濃い1日だったな」

 カバンに入った20万円の重みと、少しの疲労感。

 こうして、俺の探索者としての最初の一歩は終わった。


 明日からは**「合法探索者」**としてのソロ活動が始まる。

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