第14話 最終試験(後)
俺の脳内計算機が「撤退」を弾き出した、その瞬間だった。
「狼狽えるな雑種ども!!」
カズマの一喝が響いた。
見れば、ヒョロガリの魔導師だけが、杖を突きつけ不敵な笑みで巨体を見上げている。
足は小鹿のように震えている。だが、その瞳だけは燃えていた。
「的がデカいということは、我が魔法のいい的ということだ! 我らが力を合わせれば、神ごとき敵ではない! 行くぞ!」
その言葉に、タカシがハッとして顔を上げた。
俺も腹を括る。
轟雷の
「……ああ、やってやるよ!」
俺たちは武器を構え、散開した。
カズマが再び右手を掲げる。
「書き換えろ! 【
バチバチッ!
再び俺の斧とタカシの鉈に紫電が宿る。
さらにカズマは、残った魔力を振り絞り、足元の泥を練り上げた。
「行け、我が下僕! 【
生成されたのは、先ほどより少し大きい小学生サイズの泥人形。
人形は恐れを知らずミノタウロスの懐に飛び込み、その足元で挑発的に動き回った。
「ブモッ!?」
ミノタウロスが鬱陶しそうに足元を見る。
棍棒が振り上げられる。人形など一撃で粉砕されるだろう。
だが――その一瞬、怪物の意識は完全に「下」に向いた。
「お嬢さん!今だ!」
「は、はいっ! 【
後方で待機していたサエさんが、両掌を掲げる。
炸裂したのは、カメラのフラッシュを数千倍にしたような強烈な閃光。
暗い遺跡の中で瞳孔を開いていたミノタウロスの網膜を、光の暴力が焼き尽くす。
「グオオオッ!?」
怪物が目を押さえてのけ反る。
視界を奪われ、棒立ちになった巨大な隙。
ここを逃す手はない。
「タカシ、右だ! 俺は左足をやります!」
「おうよ! 電気屋ナメんじゃねえぞオラァッ!」
俺たちは左右に展開し、同時に飛び込んだ。
タカシが青白い魔力と雷を纏った鉈を、右足のアキレス腱に叩き込む。
ズバァッ!
鋭い斬撃音。
鉈の切れ味に加え、電気工事で培った(?)握力と、AB型の魔力纏いが乗った一撃は、見事に腱を断ち切った。
そして俺は左足だ。
Amazon製の斧に、隠していた筋力ステータスを乗せ、雷のエフェクトで偽装しながら全力で振り抜く。
「落ちろッ!!」
ドゴォオオッ!
「ブモォオオオ……ッ!!」
両足の腱を同時に切断され、支えを失った巨塔が崩れ落ちる。
地響きを立てて倒れたミノタウロスの首元に、俺はトドメの一撃を突き立てた。
***
「……か、勝った……!」
光の粒子となって消えていくミノタウロス。
その後に残されたのは、巨大な角と、拳大の魔石だ。
タカシがへたり込みながら、興奮気味に叫んだ。
「おい見たかよ今の! レンとのコンビネーション、完璧だったじゃねえか!」
「ああ。タカシの太刀筋、鋭かったな。魔力が見えたぞ」
「へ? マジ? 俺、魔力はカズマには敵わーけど、イケてるか?……なんか力が湧いてくるんだよな!」
やはり無自覚か。だが、前衛としてこれほど頼もしい相棒はいない。
サエさんも目を潤ませて駆け寄ってくる。
「みんな凄いです! まさかボス倒しちゃうなんて……!」
「カズマのおかげだな。あいつがビビらずに号令かけなきゃ、俺たちは逃げてた」
俺は視線を後方に向けた。
そこには、MPを使い果たし、壁に寄りかかって荒い息を吐くカズマがいた。
俺たちが近づくと、彼はフッと前髪を払った。
「ふ、ふん。当然だ。RHマイナスの我が血にかかれば、神殺しなど造作もない」
強がってはいるが、足はガクガクだ。
カズマは周囲をキョロキョロと見回した後、少し残念そうに、しかしどこか安堵したように呟いた。
「……しかし、惜しいことをしたな。我の英雄的活躍を収めた映像記録がないとは。世界中の損失だ」
(……ぶれねぇなこいつ。)
俺は心の中で苦笑した。
だが、この凸凹なメンバーを見渡して、確信したことが一つある。
タカシはAB型の魔法剣士。カズマは雷付与とデコイ生成。サエは回復と目くらまし。
そして俺がタンク兼アタッカーとして軸になれば――。
(このパーティー……化けるな。まぁ臨時だから今回のみだけどね。)
俺はニヤリと笑い、ミノタウロスの角を拾い上げた。
これを持ち帰れば、文句なしの合格だ。
俺たちの即席パーティーは、誰も欠けることなく、最大の
***
ゲートをくぐり、俺たちは元の『インテックス大阪』の会場に戻ってきた。
会場はすでに、探索を終えた受験者たちで溢れかえっている。
「いやー、ゴブリン強かったな」
「魔石一個ゲット! これで合格確定だろ」
あちこちで安堵の声が聞こえる。
彼らの手にあるのは、小指の先ほどの小さな魔石や、スライムの核といった「Dランク相応」の戦利品ばかりだ。
そんな中、俺たちはボロボロの姿で査定カウンターへと進んだ。
担当の試験官は、流れ作業で気だるげに手を出した。
「はい次ー。パーティー名と戦利品出してー。魔石一個以上で合格ね」
「パーティー名は……まだ決まってねえな。マッドゴーレムです」
俺はそう答えると、背負っていた布袋をデスクの上に下ろした。
「戦利品、確認お願いします」
「はいはい。ゴブリン? コボルト? まあ何でもいいけd……」
ズガンッ!!
俺が袋の中身を取り出し、デスクに叩きつけた瞬間、重苦しい音が響いた。
試験官の言葉が止まる。
周りの受験者たちの視線が、一点に集中する。
そこに置かれたのは、人間の腕ほどもある、太く鋭利な**『牛の角』**。
そして、握り拳大の純度の高い魔石だった。
「……は?」
試験官が眼鏡をずり落とした。
数秒の沈黙の後、会場が揺れるほどの絶叫が響き渡った。
「ミ、ミノタウロスの角ぉぉぉぉおお!?」
「はあ!? 嘘だろ!? あそこのエリアボスだぞ!?」
「あいつら何者だ!? 即席パーティーじゃねえのかよ!」
会場が一瞬にして騒然となる。
驚愕の視線を浴びながら、タカシは鼻の下をこすって「へっ、楽勝だぜ」とドヤ顔をし、サエさんは恥ずかしそうに縮こまっている。
そしてカズマは――
「フッ……騒ぐな愚民ども。深淵を覗く者にとっては、これしき赤子の手を捻るようなもの」
マントを翻し、空に向かって電撃を放つ最高に痛々しいポーズを決めていた。(足はまだ震えている)
「ま、マッドゴーレム……! 文句なしの合格です。」
試験官が震える手で合格印を押す。
俺は心の中で小さくガッツポーズをした。
(計画通りだ。目立ちすぎた気もするが……まあ、こいつらが『濃すぎる』おかげで、俺個人の異常さは誤魔化せるだろ)
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