第13話 最終試験(前)


 ゲートを潜ると、そこは予想外の光景だった。



「すご……」


「わぁ……」



 思わず声が出た。

 狭い通路ではない。天井は見えず、崩れかけた古代遺跡が広がる**「フィールド型」**の階層だ。

 空には偽物の太陽が浮かび、遺跡を照らし出している。

 まるで、RPGの世界に迷い込んだような錯覚に陥る。

 試験の合格条件はシンプルだ。この第一階層を探索し、ドロップ品(魔石など)を一つ以上持ち帰ること。



「……出るぞ」


 タカシが低く唸る。

 感動も束の間、崩れた壁の陰から、緑色の肌をした小鬼――ゴブリンの集団が現れた。その数、五体。

 Dランク試験の最初のハードルだ。



「ひっ……!」


 サエさんが短く悲鳴を上げ、俺の後ろに隠れる。

 俺は斧を構え、タカシも腰のナタを抜いた。

 だが、真っ先に動いたのはカズマだった。



「フッ……雑魚が。我が雷撃の餌食となるがいい!」



 カズマがバッと前に出る。

 そして、中指、人差し指、親指を直角に立てる奇妙なポーズ(左手)をとった。



「我が身は雷のソースなり! 唸れ、発電機!!」


「いや、それ左手。モーターの方やぞ」



 タカシはナタを構えながら、冷静に突っ込んだ。


 フレミングの法則。左手は電・磁・力。動力を生むやつだ。電気を生む(発電)なら右手だ。



「う、うるさい! 細かいことは気にするな!」



 カズマは顔を真っ赤にして逆ギレし、強引にポーズを右手に変えた。



「書き換えろ! 【雷属性付与ライトニングエンチャント】!」


 バチバチッ!


 カズマの手から放たれた紫電が、俺の斧と、タカシの鉈に吸い込まれる。

 さらにカズマは、足元の土を練り上げ、一体の人形を生み出した。



「行け、我が下僕! 【土人形マッド・ゴーレム】!」



 現れたのは、幼稚園児サイズの泥人形。

 だが、その人形は果敢にもゴブリンに突撃し、ヘイトを集めるデコイとして機能した。



「すげえ! マジで魔法だ!」


「レン、行くぞ!」


「はい!」



 俺たちは飛び出した。

 雷を纏った武器の一撃は凄まじかった。ゴブリンたちは感電して動きを止め、俺たちの一撃で霧散した。


 ***


 戦闘終了後。

 タカシが落ちた小さな魔石を拾い上げる。



「よし、これでノルマ達成だな。戻るか?」


「待て待て待てぇい!!」



 カズマが絶叫してタカシの手を払いのけた。



「貴様、この選ばれし『深淵の魔導師』カズマに、このような小石を提出せよと言うのか!? プライドがないのかプライドが!」


「えぇ……でも合格は合格だし……」


「否! 断じて否だ! 見ろ、あそこを!」


 カズマがビシッと指差したのは、フィールドの奥深くに聳える古びた神殿エリアだった。



「あの禍々しい気配……間違いなく『強者』がいる。我らで奴を討ち取り、その首を戦果として持ち帰るのだ! それこそがSSR級パーティーの初陣に相応しい!」


(……めんどくせえ)

 俺はため息をついた。だが、内心では同意していた。

 どうせなら、もっと手応えのある獲物で自分の力を試しておきたい。



「……いいんじゃないか? 時間はまだあるし」


「レンが言うなら……まあ、行くか」



 俺が賛成すると、タカシもニカっと笑った。

 サエさんは「ええぇ……」と涙目だが、多数決で神殿行きが決定した。


 道中、連携を確認するために軽い自己紹介を行うことにした。




「改めて俺はタカシ。地元は岸和田だ。地元では電気工事をやってる。ダンジョンには法律ができる前によ、近所のゲートにちょっと潜ってたんだわ よろしく。」



 タカシが鉈を撫でながら言う。

 岸和田か。だんじり祭りの町だ。気性が荒いのも納得だ。



「 経験者!? ジョブとかは?」


「『剣士』だ。ま、俺の場合は魔力をこう……身体に纏わせて叩き斬るスタイルだな。血液型もAB型だし、相性はいいみてえだ」


「……奇遇だな。俺もAB型(RH+)だ」


 俺も続いて名乗る。


「ぼくはレン。ジョブは『戦士』。西宮で学生してます!今日のために身体を鍛えてきました!」


「マジか! AB型仲間じゃねえか! 気が合うな兄弟!」


 タカシがニカっと笑って俺の肩を叩く。

 無自覚に「魔力纏い」ができるセンス。間違いなくAB型の恩恵だ。

 俺は少し声を潜めて聞いた。



「ちなみに、固有スキルは?」


「……ん? ああ、それは内緒だ。切り札は見せびらかすもんじゃねえだろ? レンはどうなんだ?」


「ぼくも今のところは『なし』ですね」



 俺は言葉を濁した。

 タカシは悪戯っぽくウインクした。

 なるほど。ただの脳筋かと思いきや、肝心なところは締めている。信頼できそうだ。



「あ、改めて、私はサエです。血液型はB型で……今日、初めて石に触って覚醒しました。ジョブは『僧侶』選びました!」


 サエさんは緊張した面持ちだ。これが普通の反応だろう。

 今日目覚めたばかりでこの場に立っているだけでも十分すごい。

 そして、最後の一人。



「フッ……聞きたいか? 我が力の一端を」



 カズマがフードをバサっと払った。


「我も貴様らと同じく、混沌の洗礼を受けた身。規制後は法を遵守し、夜な夜な自室で紫電を操る修行に明け暮れていた……」


(要するに、カズマも潜ったことあるし、家でコソ練してたってことか)意外と真面目だ。

 その時、カズマがピタリと足を止めた。

 その目が、鋭く一点を見据える。



「む……! 感じるぞ。我が『気配察知』が警鐘を鳴らしている」


「気配察知? お前、そんなスキル持ってるのか?」


「フッ、ステータス画面にそう書いてある! あっちだ! 強大な『力』が呼んでいる!」


 カズマが指差したのは、神殿の最奥部。


(……マジかよ)

 俺は驚いた。

 『気配察知』は、ステータス機能を持つ者の中でも、特に感覚が鋭い奴にしか発現しないレアスキルだ。


 単なる勘や妄想じゃない。システムが「そこにいる」と告げているなら、確実にいる。


 ***


 神殿エリアに足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 崩れかけた石柱の広場。

 その中央に、地響きと共に「主」が現れた。

 牛の頭に、巨人の体躯。手には丸太のような棍棒。


ミノタウロス。



「ブモオオオオオッ!!」



 咆哮だけで空気が振動する。



「うお、マジかよ……デカすぎだろ……!」


「ひっ……!」



 タカシが冷や汗を流し、サエさんが足踏みする。

 Dランク試験にしては、明らかに格上だ。

 俺も斧を握る手に力が入る。


 全員で逃げるべき――俺の中の計算機が、激しく警告音を鳴らした。

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