第12話 探索者試験

 1月25日。

 決戦の日――「第一回 臨時探索者資格試験」の当日がやってきた。

 会場となったのは、大阪南港にある大型展示場『インテックス大阪』だ。

 最寄り駅を降りた瞬間、俺は帰りたくなった。



「……すげぇな…コミケかよ」



 視界を埋め尽くすのは、人、人、人。

 だが、その大半は受験者ではない。

 試験の様子を一目見ようとする野次馬、再生数稼ぎの配信者、そして「合格祈願」の怪しいグッズを売る露店商たちだ。



「ダンジョン饅頭、いかがっすかー!」


「そこのお兄さん! 試験前に『運気が上がる壺』どう!?」


『こちら、会場前です! ものすごい熱気です!』


 まるで万博かフェスだ。

 そんな有象無象の群衆をかき分け、受験票を持った人間だけが、ゲートの奥へと進むことを許される。

 だが、その受験者層もカオスを極めていた。

 迷彩服にモデルガンを持ったミリオタ崩れ。

 金属バットや鉄パイプを担いだ、特攻服姿のヤンキー集団。

 そして、明らかにゲームの装備を模した段ボール鎧を着ているコスプレイヤー(真顔)。

 殺気と熱気、そして勘違いした連中のイキり声が混ざり合い、異様な空気を醸し出している。



「おい見ろよ、あいつ段ボール装備だぜwww」


「俺たちゃ『チーム・マッドドッグ』だ! 喧嘩売るなら覚悟しろよ!」



 ……地獄だ。


 俺は深くフードを被り、気配を消して受付の列に並んだ。

 Amazonで購入したプロテクタージャケットに、カーゴパンツ。背中には布で包んだ斧。

 この会場では、俺のような「地味で実用重視」な格好は逆に浮いているのかもしれない。


 ***


 午前中は筆記試験だった。

 内容は「ダンジョン探索業務法」や「緊急時の避難マニュアル」など、事前に公開されていたPDFを読んでいれば誰でも解ける常識問題ばかりだ。

 だが、周りからは「こんなん読んでねえよ」という舌打ちが聞こえてくる。

俺は淡々とマークシートを塗りつぶした。

 おそらく満点だろう。


 そして午後。

 筆記試験を通過した者だけが、次のステップ――

**『適性覚醒』**へと進む。



「これより、ダンジョン未経験の方に対し『覚醒』を行います。係員の指示に従い、順番に『原石』に触れてください」



 大ホールの中央には、黒く脈打つ巨大な石――ダンジョンから回収された『魔力原石』が鎮座していた。

 まだジョブ機能等に覚醒していない人は、これに触れることでジョブ機能等に目覚めさせる仕組みらしい。



「う、うわっ! なんかビリビリした!」


「俺、気分悪い……」



 原石に触れ、興奮して手を震わせる者が続出する。

 俺の番が来た。

 すでに覚醒済みの俺には不要だが、形式上触れなければならない。

(……一応、初めてのフリをしておくか)

 俺はおっかなびっくり石に触れ、数秒後に「っ……!」と大袈裟に手を引っ込めた。

 係員が事務的に頷く。



「はい、反応あり。次の方、測定へどうぞ」



 通過儀礼を終え、いよいよ実技(身体測定)だ。



「次、受験番号0452番! 神崎 蓮!」



 係員の呼び出しに応じ、俺は測定機の前へ進み出た。

 種目は「背筋力」と「魔力測定」。

 周りの受験者が見守る中、俺はグリップを握る。


(……なんで背筋なんだよ。ゴリラじゃねーんだぞ)

 俺は心の中で悪態をつきつつ、リミッターをかけて、素の本気の力で引いた。



 ガシャンッ!


「はい、背筋力220キロ! ……お、身体がデカイからか結構いいね」


「ありがとうございます」



 係員が少し驚いた声を上げた。

 最近のビルドアップで体格が良くなっているため、スポーツマンなら出せる範囲。だが、一般人にしては強い。狙い通りの数値だ。



 続いて魔力測定。

 水晶玉のような装置に手を乗せる。

 AB型は魔力が高いという噂があるが、今の俺の見た目は完全に「脳筋戦士」だ。多少低くても「戦士ならこんなもんだろ」という偏見が働くはずだ。



「……魔力反応、あり。ランクD相当。――合格だ」



 よし。

 俺は心の中でガッツポーズをした。

 これで晴れて、俺は公認の「探索者」だ。

 だが、本当の試練はここからだった。



「えー、合格者はその場で『D-Link』を起動し、4人1組の即席パーティーを結成してください。次の最終試験は、パーティー単位での模擬探索となります!」



 会場にどよめきが走る。

 アプリを使ったマッチング試験。

 コミュ力と運が試される「パーティーガチャ」の時間だ。

(頼む……! 綺麗なお姉さん来い!!)

 俺は邪な願いを込めつつ、スマホを取り出しマッチングボタンを押そうとした。

 その時だ。



「おい、そこのデカい兄ちゃん! お前、背筋力なかなかだったな!」



 声をかけてきたのは、金髪を逆立てた男だった。

 耳には大量のピアス。見た目は完全にヤカラだが、不思議と愛嬌がある顔をしている。



「俺はタカシ。喧嘩なら負けねえけど、頭使うのは苦手でよ。お前みたいな冷静そうなのが欲しかったんだ。組まねえか?」


「……?あぁ…よろしくお願いします!」



 悪い人ではなさそうだ。同じ前衛役としてアリだろう。

 俺が承認ボタンを押すと、あと2枠。



「あ、あの……私も、入れてもらえませんか?」


 おずおずと手を挙げたのは、スッキリしたスカイブルーのパーカーに動きやすいカーゴパンツ、白スニーカー姿の女子だ。

 手には救急箱と小さなポーチを持ち、清潔感と実用性を兼ね備えている。



「私、サエと言います。看護学生なんです。正面から戦うのは無理ですけど、応急処置なら……」


「おー! ヒーラーか! 大歓迎だぜ!」



 タカシが即決した。

 上目遣いで控えめな態度。


(……あざといなぁ。こんな感じのがサークルクラッシャーなんだろうなぁ……だが、悪くない……)

「レンって言います。今日はよろしくお願いします」



 回復役(衛生兵)は必須だ。

 これで三人。バランスはいい。

 あと一人は遠距離攻撃ができる奴がいればベストだが――。

『募) 選ばれし魔法使いのワイ将のPTメンバーは20前半までの女で』


 アプリの近隣募集リストに、見覚えのある不穏な文言が表示された。

 ……いや、まさかな。

 そう思った瞬間、俺たちのグループに通知が来た。


『【轟雷の魔導師】が参加を希望しています』


「うお、魔導師!? すげえ名前だな! 承認承認!」


「あ、おい待て!」



 俺が止める間もなく、タカシが承認ボタンを押してしまった。

 直後、人混みを割って「そいつ」が現れた。

 黒いローブ(ドンキ製)を纏い、左手に包帯を巻き、右目にはカラーコンタクト。

 そして、妙に自信満々な薄ら笑いを浮かべたヒョロガリの男。



「フッ……待たせたな。我が名はカズマ。深淵を覗きし者だ」



 俺は天を仰いだ。

 終わった。

 掲示板でうじゃうじゃいる魔導師タイプだ……。

 SR級の「地雷」を引いてしまった。



「……よろしくお願いします。ぼくはレン。こっちはタカシと、サエさんだ」


「ふむ。戦士に僧侶、そして……肉壁か?」



 カズマは俺(地味な装備)を見て、鼻で笑った。


「まあいい。我が選ばれしRHマイナスの血は、そこいらのA型やB、O型のジョブのみごときパチモン魔道士とは格が違う。我が真の火力を特別に見せてやろう。その暁には、このパーティーを合格へと引っ張っていってやる……ククク」


「……」



 俺は無言でサエさんと顔を見合わせた。

 タカシも「やべえ、間違えたかも」という顔をしている。

 だが、マッチングは成立してしまった。キャンセルはできない。



「最終試験、開始!」



 アナウンスと共に、会場奥の巨大なゲートが開く。

 俺たち「即席パーティー」の、波乱しかない初陣が始まった。

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