第4話 超回復
俺は1階のガレージへと降りた。
ひんやりとした六甲おろしの風が隙間から入り込む。
そこには、俺がパンデミックで巣ごもり生活になるだろうからと、小遣いを叩いて買った相棒――オールインワンスミスマシンが鎮座している。
ベンチプレスから懸垂、スクワットまで1台でこなせるホームジムの王様だ。
本来なら3月頃から始まるであろう自粛生活のために使うはずだったが、用途が変わった。
対ダンジョン用、肉体改造マシンとして働いてもらう。
「さて……まずは『超回復』の検証だな。」
掲示板には『回復速度アップ(中)』程度の報告しかなかった。
だが、俺は疑っている。
賢い奴ほど、本当の切り札は隠すものだ。「俺のスキルはショボい」と書き込みつつ、裏ではニヤついているに違いない。
情報戦はすでに始まっているのだ。
俺はベンチに仰向けになり、シャフトを握った。
まずはプレートを付けず……なんて、生ぬるいことはしていられない。
俺はいきなり、普段の10レップの重量に近い70キロをセットした。
「……ふんっ! ふんっ!」
ゆっくりとバーベルを下ろし、爆発的に挙げる。
軽い。
普段は10回前後止まりだが、アドレナリンが出ているのか、10回を超え、20回まで挙がった。
乳酸が溜まり、筋繊維が悲鳴を上げ、大胸筋がプルプルと震えだす。限界だ。
「……ぐ、ぅ……!」
ガシャン!
これ以上は挙がらない。俺はセーフティーバーにシャフトを落とし、ベンチに崩れ落ちた。
その瞬間だった。
トレーニング中にも感じたが、体の奥底から、熱い奔流が湧き上がる。
カッ、と全身が熱くなり――次の瞬間には、上半身のダルさが嘘のように消え失せていた。
「……ははっ、マジかよ」
俺は跳ね起きた。
筋肉痛どころか、疲労感すらリセットされている。呼吸も乱れていない。
それどころか、筋肉が内側から張り詰め、自然とパンプアップしている気もする。
俺は震える手で、ステータス画面を開いた。
***
名前: 神崎 蓮
年齢: 17歳
身長: 183cm
体重: 82kg
血液型: AB
ジョブ: 戦士 Lv.1
筋力: 15 → 16 (UP!)
耐久: 14 → 15 (UP!)
敏捷: 12
魔力: 5
固有スキル: 【超回復】
***
「上がっとる……」
数値が上がっている。
たった1セットの追い込みで、確実に成長している。
これなら、寝る間も惜しんでトレーニングができる。
「次は、こっちも試しておくか」
俺は意識を集中する。
掲示板で話題だった「魔力纏い」。
情報が正しければ、魔力を纏うことで身体能力が上がるはずだ。
「……おお?」
念じると、皮膚の表面に薄い膜のような感覚が生じた。
目に見えるほどではないが、空気が歪んでいるのが分かる。
体が軽い。内側からエネルギーが湧いてくるようだ。
「これなら、いけるか?」
俺は一度立ち上がり、プレートを追加した。
合計100キロ。
高校生としては規格外だが、今の俺なら一回どころか数回扱える確信があった。
「ふんっ!!」
100キロの鉄塊が、まるで発泡スチロールのように浮いた。
軽い。魔力の補助があれば、今の筋力値以上の出力が出せる。
「成果が確約された投資……最高じゃねえか」
俺はニヤリと笑い、再びベンチに仰向けになる。
世界がパニックに陥っている間に、俺だけは虎視眈々と牙を研ぐ。
まずは荷物が届く明日までに、この体を「レベル1の限界」まで仕上げるか?
それとも、魔力纏いならある程度まで行けそうだ。今からバットを持って行くか?
――グゥゥゥゥ。
腹が鳴った。猛烈な空腹感だ。
そうか、回復にもマナにもエネルギーがいる。無から有は生まれない。カロリーが必要だ。
「飯食うか」
俺はスマホでニュースのLIVEを見つつガレージの冷蔵庫を開けた。
買い置きしていたプロテインバーとバナナを掴み取り、野獣のように貪り食う。足りない。
俺は台所へ駆け上がり、炊飯器に残っていた白米を丼に山盛りにし、生卵を3つ落として喉に流し込んだ。
「食って、壊して、治して、また食って。…… 永久機関が完成しちまったなぁぁ~!!」
しかし、丼を空にしてから、俺はふと我に返った。
これから食糧難になるかもしれないってのに……1食分くらい消費してしまった。
このペースで食い続けたら、家の備蓄なんて3日も持たないぞ。
それに、これだけ食えばトイレの方も凄まじいことになりそうだ。
「コストがかかりすぎる……」
俺は口の周りを拭いながら計算する。
Amazonの荷物は明日届く予定だ。本来なら、それまで待つのがセオリー。
だが、待っている間の食費はどうする?
「……ダンジョンに行けば、モンスターの肉とか手に入らんか?」
掲示板を再確認すると、低層のダンジョンでも肉がドロップするという報告が上がっていた。
もし肉が現地調達できるなら、食糧問題は解決する。
タダで手に入る高タンパク源。見逃す手はない。
「装備はまだないが……俺には【魔力纏い】がある」
100キロを軽々扱えるパワーと、ゴブリンの棍棒くらいなら弾き返せそうな防御膜。
それに、武器ならある。
俺はガレージの隅にある、親父のゴルフバッグの隣を見た。
そこには、かつて親父が会社の付き合いの草野球で使っていた金属バットとグローブが転がっている。
「……行くか」
明日まで待つつもりだったが、予定変更だ。
利益(肉)が目の前にぶら下がっているのに、指をくわえて待つなんて性分じゃない。
俺は金属バットを握りしめ、数回素振りをする。
ブンッ! と重い風切り音が鳴った。
鍛えたその身体。溢れる気迫。今の俺にぴったりの某応援歌だ。
「1人は危ないよな……」
いくらステータスが上がったとはいえ、初陣だ。
LINEで友達に声をかけつつ、俺はバットを肩に担ぎ、ガレージのシャッターを開けた。
目指すは近所の公園。
さあ、狩りの時間だ。
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